横浜市役所での公務員職を経て、ピン芸人へ転身した珍しい経歴を持つイラストレーター・すぐる画伯。現在は吉本興業初のイラストレーターとして、書籍の装画や広告、キャラクター考案、グッズ制作などを担当。1コマ漫画を日々投稿しているインスタグラムのフォロワーは20万を超える人気を誇っている。
こだわりを英語にするとSticking(スティッキング)。創作におけるスティッキングな部分を、新進気鋭のイラストレーターに聞いていく「イラストレーターのMy Sticking」。今回は、すぐる画伯がイラストレーターになったきっかけやイラストの特長、今後の夢を聞いた。
ネタ見せで「絵を伸ばしたほうがいいよ」
――イラストレーターになったきっかけは、NSC時代でネタ見せの際、講師からフリップの絵を褒められたことだと伺いました。どんな絵を描いていたのでしょうか?
すぐる画伯:当時は“ゆるかわ”というよりは、“きもかわ”なテイストでした。今でも書けますよ、目は点で変わらないんですけど……「髪の毛1本もないくん」です。講師から「線は単純なのに独特だね。こういうのがすぐ書けるなら、研究したらもっとすごいの書けるよ」と言ってもらいましたね。
ネタ見せを終えたときにも、みんながネタのこと言われているなかで、僕は作家さんから「君、その絵だけどさ」と切り出されて、てっきりネタのダメ出しをされるのかと思いきや「漫才やりたいの? でも、絵を伸ばしたほうがいいよ」って言われたんです。びっくりしましたけど、得意なことを見つけてもらえてうれしかったですし、そこから絵が好きになっていきましたね。
――それまではイラストを描くことはなかったですか?
すぐる画伯:ないですね。大学時代のアルバイトで、ホワイトボードによく落書きをしていて、周りから「面白い絵を描くね」と言われることはありましたが、美術の成績は2でしたし、特技だとは全く思ってませんでした。講師から言われて初めて気づきました。
――では、「やぁねこ」のような、ゆるくて可愛らしい絵のテイストになったのは、いつからだったんでしょうか?
すぐる画伯:グラデーションで変わっていったので、明確な転換点はないんです。先ほどの「髪の毛1本もないくん」も、今の僕が見ると“きもかわ”なんですが、当時は可愛いと思って描いていたので。
数年前の投稿を見ると、“あれ? もうちょっと可愛くかけるよな”と思うことがあるけど、当時はむっちゃ可愛いと思って描いているんですよね。その時々で受けた影響で少しずつ感性が変わっていき、自分の中の100点がズレていっているんだと思います。
やぁねこも、こういう猫を描きたくて毎日研究していたのではなく、こういう猫の絵がだんだんと描けるようになっていったなかで、現時点での最上級の可愛いとしてできたという感じです。
――SNSのコメントなどで好評だったものが、自分の中に蓄積された感じでしょうか。周りからの反応を受けて、ブラッシュアップしていくのは芸人さんっぽいかもしれないと思いました。
すぐる画伯:たしかに。毎回、投稿したあとには反応を見ていたのですが、無意識にアップデートしようとしていたのかもしれません。お客さんの前でネタを披露しているときって、笑ってくれるお客さんの顔が見えるじゃないですか。それって楽しんでもらえていることがわかるから、とんでもなく気持ちいいんです。
一方で、イラストは部屋で描いてるので、楽しんでくれているかどうかは、コメント以外だとわからないんですよね。でも「すぐる画伯の絵を見て、明日も頑張ります!」みたいなコメントがあったときには、この人のヒーローになれているのかもしれないと思えるんです。そういったことがモチベーションにつながっているんだと思います。
――すぐる画伯のイラストは、全体的に淡い色で柔らかい印象がある一方で、ご自身のキャラがかぶっているベレー帽には目立つ赤色を使われてますよね、この違いにこだわりはありますか?
すぐる画伯:色彩検定を取っているんですけど、自分が選ぶ色のトーンは決めています。着色していくことによって、絵がどんどん可愛くなっていくのも楽しいんです。キャラクターを描く際に使う色は全て記憶しているのですが、この赤を使うというルールを自分の中で決めていたんです。自分を描くから“目立ったほうがいいかな”くらいですが、色を決めるときには全て言語化できるこだわりがあります。
――すぐる画伯には、“その色じゃないといけない”というこだわりがあるんですね。現在も、ほぼ毎日SNSの更新をされていると思うのですが、そこにもこだわりがありそうだなと思いました。
すぐる画伯:そうですね、言葉にすると「継続は力なり」ですかね。SNSはなるべく夕方の5時台にアップするようにしています。拡散されやすい時間帯は他にあるとも聞いたことはあるのですが、高校生がスマホを見ながらニヤニヤしていた光景を鮮明に覚えていたことがあって。
それを見たとき、“僕の絵を見てくれている人って、もしかしたらこういう状態なのかも”と思ったんですよね。帰り道にスマホをいじる方は多いと思います。僕の絵で癒しを届けられたらいいなと思い、5時台に上げるようにしています。