上勝町が最初に取り組んだのは生ごみの処理
自分たちの住む自治体でもできる取り組みはあるだろうか。
「自治体のルールに従って、ごみをきちんと分別するということが大切です。そのうえで、ものを捨てる時点ではなく、手に入れる時点で、ごみを出さない選択をしてみるのはどうでしょうか。
例えば、より長く使えるものや使い捨てではなく、繰り返し使用できるものを選ぶといいと思います。選択肢は都市部のほうが多いと思いますので、実践しやすいのではないでしょうか」
コンポストや生ごみ処理器の利用も、私たちが取り組める選択肢のひとつだ。じつは、上勝町で最も早く取り組んだのは生ごみの処理。焼却ごみの40~50%が、水分が多く焼却に適しない生ごみであることがわかり、先に解決したのだという。
「上勝町では、生ごみは各家庭で処理する体制になり、回収をおこなっていません。ほとんどの家庭が、生ごみ処理器やコンポストを使い、堆肥に変えています。
最近では『バクテリアdeキエーロ』という、土にいる微生物の力で生ごみを分解する処理器も導入が進んでいます。土の中に埋め込むため、ニオイが気になりにくいですし、生ごみは堆肥ではなく土に還るので、堆肥を持て余してしまう都市部でも使用しやすいようです」
「小さな町だからできるんだ」と言わないで
環境への取り組みの必要性が高まるにつれ、ゼロ・ウェイストタウンの先駆者の活動を見るために、上勝町には国内外から視察に訪れる人も多い。じつは、菅さんには気になっていることがあるらしい。
「町を視察したあと、“人口1400人の小さな町だからできることですね”と言われることが多いんです。確かにその通りで、私たちは自分たちの小さな町の状況に合わせて取り組んできました。それを、他の場所で全く同じようにできないのは当たり前ですよね。
でも、町の小ささだけを取り組みができる理由とは考えてほしくない、というのが正直な気持ちです。ゼロ・ウェイストの考えや方法の一部を、その地域や状況に合わせた形にして、ぜひ取り入れていただけたらと思います」
現在、ゼロ・ウェイストの考えを都市に合わせた取り組みも実施されている。
「上勝町地方創生支援などをおこなう徳島県の企業・株式会社スペックが、三菱地所株式会社と協力して活動しています。
三菱地所の物件内に設置したコンポストでは、施設から出る生ごみを液肥化し、その液肥を活用して育てられた農作物が、社員食堂で使われているんです。また、同じように育てられた米を使い、上勝町内のブルワリー「RISE & WIN Brewing Co.」では『TOWNCRAFT~まちの未来を考えるビール~』が作られました。
今年5月には、ビールを楽しみながら、上勝町の取り組みを身近に感じてもらうためのイベントが東京千代田区で開催されたんです。まさに、ゼロ・ウェイストを都市でも継続できる形で取り入れた例だと考えています。こうした取り組みが、これから増えていくといいですよね」
2020年に向けて、ごみを減らす目標でおこなわれたゼロ・ウェイスト宣言。新たに、2030年に向けた宣言がおこなわれ、さらなる取り組みが続いている。
「現在、リサイクル率は約80%を推移しています。住民と行政という、消費者の立場でできる限界まできたのではないでしょうか。
新しい宣言で盛り込んだ『ゼロ・ウェイストで、私たちの暮らしを豊かにします』『町でできる、あらゆる実験やチャレンジをおこない、ごみになるものをゼロにします』という部分には、すでに精いっぱい取り組んでいる住民への負担を増やすのではなく、製造者やリサイクル業者とさらに連携して解決を図る、という思いが込められています。
住民の負担を減らしながらも、継続・発展させていくにはどうしたらいいのか、という段階になってきたと感じています。これからもさまざまな方法を検討し、進めていきたいと思います」
世界規模で環境問題が取り上げられているなかで、「ゼロ・ウェイスト」の理念が広まり、浸透するのは時間の問題ではないだろうか。自分がいる場所でもできる取り組みから始めていきたい。
(取材:三郎丸 彩華)