人々が多く行き交う「表通り」から外れた、表通りに面していない裏側の場所「路地裏」。いつもはあまり通らない路地裏こそ魅力が詰まったステキスポットだと言う路地裏好きイラストレーター・指宿に、その魅力を語ってもらった。

心の栄養を取るために、いざ路地裏探しへ

皆さんも生きていれば、一度くらいは猥雑で小汚い路地裏に迷い込んで、狭苦しい道の先で“ステキな室外機と巡り会いたい!”という願望を抱いたことはあると思いますが、例に漏れず私もその願望を強く持っています。

当たり前のように、いつでもそこに存在する路地裏。人びとの生活に直結した、でも人前にはあまり出されるべきではないとされている物たちが詰め込まれた、宝の山のような場所。

とても幸運なことに、東京ではこの夢のような場所にお手軽に行くことができます。なんてったって、味のある路地裏があっちこっちに散在してますからね。ありがたい限りです。

心の養分が足りなくなってくると渋い路地裏を探しに行くわけですが、お陰様で路地裏好きを公言していると、同じく路地裏好きの方々(勝手に路地裏界隈と呼んでいる)が引き寄せられるようにやってきては、全国各地のステキスポットを教えてくれるので、探索場所には困りません。

最近、特にお気に入りの路地裏探索スポットは「銀座」です。

銀座といえばブランド店が立ち並ぶ、美しくキラキラした地価の高い街というイメージが強いのですが、煌びやかな大通りから一歩踏み込むと、そこはディープな場所に繋がっています。路地裏界隈垂涎ものの、暗く怪しい路地裏が多数存在しているのです。光が強まると影も濃くなるのでしょうか。

そのなかで今回、ご紹介する路地裏は二つ。まずは、豊岩稲荷神社の路地裏です。

▲銀座 豊岩稲荷神社の路地裏のステキスポット イラスト:指宿

とにかく狭い。ちなみに個人的に路地裏に「狭い」は褒め言葉です。窮屈なら窮屈なほど、その圧迫感にワクワクしますからね。冒険の旅に出てきたような高揚感があります。

神社への入り口には朱色ののぼりがあって、そこから細い路地を進んでいくと灯籠と小さなお社が。こんな狭い場所でお参りをすることはなかなかないと思うので、これもまた貴重な体験なのですが、何より胸が熱くなるのが、その神社の先にある路地裏。

とにかく暗い。ちなみに、個人的に「暗い」も褒め言葉です。明るさが絞られれば絞られるほどウキウキしますからね。暗い路地裏のなかで、壁やフェンスを覆う雑草が外界から僅かに差し込んでくる日光を取り込まんとしている姿を想像してみてください。無常の喜びを感じませんか? 私は感じます。

銀座の路地裏全般に言えることなのですが、銀座は基本的に階層の高い建物が多く、必然的に建物と建物のあいだにできる路地裏は、日の光があまり入らなくなります。そうするとどうでしょう、高いビルに囲まれた、暗くて圧迫感のある配管と室外機だらけの路地裏が誕生するわけです。素晴らしいですね。そもそも明るくて開放感のある路地裏なんて、路地裏とは呼べないような気もしますが。

この豊岩稲荷神社周りの道も暗さと狭苦しさを兼ね備えた、まさにハイブリッド路地裏なのですが、この路地裏で私が何より好きなのが上を見上げること。

建物が高いことで空が狭く見え、まるで天井の割れ目から空が見えているよう。その割れ目から僅かに入り込んだ空を反射して、壁の高いところに張り付いたダクトが青く光っている光景が非常に美しい。

▲建物と建物の間から線で引かれたような空が…

さらに路地裏には蛍光灯が設置してあるので、壁の高い位置で空を反射して青く光るダクトと、地上近くで人口の光に照らされてオレンジに光るダクトという、対照的な2パターンの無機物を楽しむことができます。一回で二度美味しい。 

路地裏を歩いていると、こういうふうに無機物をいろんな角度で見ることができて、それもまた路地裏歩きの楽しみの一つだったりします。

また、時間帯によって光の差し込み方も勿論違うので、自分の好みの光が差し込む時間帯を探してみるのもまた一興。例えば、夕焼けに照らされる路地裏なんていうのも、ノスタルジーでなかなかおすすめです。夜も路地裏の闇が深まり非常に興奮しますが、足元と身の安全を守るためにも、あまり遅い時間に路地裏に入り込むことはご注意。あくまで安全に、路地裏とは適切な距離感で付き合っていきたいですね。