日本人の働き方がどうも変だ。この言説は今になってはじまったことではなく、数十年のスパンで雑誌やテレビ番組などで何度も語られてきました。問題は「かける時間のわりに成果がまったくともなっていない」その生産性の低さ。イギリス在住の谷本真由美さんが日本人特有の弱点を指摘します。

※本記事は、谷本真由美:著『世界でバカにされる日本人』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。

リストを印刷し、ハンコ押して、スキャンしてメール…

日本生産性本部が実施した調査(二〇一七年一二月)によれば、生産性に関して日本は先進七か国のなかで、なんと最下位でした。ビジネスパーソンの報酬も今や先進国のなかではかなり低いほうで、どちらかというとハンガリーとかチェコの給料に近くなってきてしまっています。

とくにIT業界は顕著で、他の先進国で働けば現在より給料が二倍から五倍くらいになることもあるのですが、それを知らない日本人があまりにも多いのです。なぜ日本人、とくにホワイトカラーの生産性はほかの先進国と比べて異様に低いのでしょうか?

それは他の先進諸国と同じような成果を得るのにも、まるで必要とはいえない作業を精魂込めてたくさんやっているからだと思われます。たとえば私の専門は内部統制やITガバナンスといった分野で、企業の監査にかかわることもあるのですが、日本企業の仕事のやり方は諸外国に比べると非常に馬鹿げていると感じることが多いのです。

日本のある大企業の場合、社内の人が定期的な監査をやるのに、チェック項目がすべてエクセルにまとめられていて、なんとそれを全世界の支社に送っていました。さらに驚いたのは、そのチェックを「手動」でやっていたことです。

「引き出しに鍵がかかっているかどうか」「パソコンの中のファイルを削除したかどうか」などということをいちいち目で確認し、それを印刷したエクセルのシートにボールペンでチェックを入れ、関係者全員のハンコを押して、それをスキャンしてPDFにしてから関係部署にメールで送信する──という意味不明なことをやっていたのです。

しかも三〇個以上とか、あまりにもたくさんのシートが付いているので、ファイルが壊れたり開けなかったりすることも一度や二度ではありませんでした。

必要なシートを探すのにも一時間ぐらいかかることはザラにあるし、ファイルが壊れていると、破壊されたファイルの内容に関して知っている人を探し出して問い合わせ、なんとか直そうとするのですが、それにも二日ぐらいはかかってしまいます。

さらにご丁寧に作成されたシートは基本的にA3の紙に印刷するようになっているのですが、プリンターの設定によってはA3用紙を印刷することが難しかったりします。海外の支社にはA3が印刷できないプリンターも多い。本来A3は日本でもそんなに使われない大きさですが、海外ではほぼ使われていません。その印刷方法を探すのにかなりの時間を要したりすることがザラにあるのです。