システムで自動的にチェックする先進諸国

これがアメリカやイギリスの企業だった場合どうなるか──。

海外では、会社のなかに全世界で使われる監査用のシステムが入っていることが少なくありません。監査のチェックはそのシステムによって自動的になされることもあるし、人間が何かを記入しなければいけない場合は、システム上で操作をして何箇所かチェックを入れれば済むようになっています。

この作業に必要な時間はおそらく五分から一〇分ほどでしょう。この五分から一〇分の作業と同じことをやるために日本人はA3の紙を印刷することで大騒ぎし、出張から何日も帰ってこない関係者や、うつ病で休みがちな上司のハンコをもらうのに東奔西走するのです。

さらには分厚い手順書を読み、意味不明な部分を解明するために担当者を探しだす。メールや電話で連絡をとり、プリンターの設定を直し、監査を待たされた外国人同僚の機嫌をとる……。すべてを完了する前にもしや過労死してしまうのではないか、という懸念さえしてしまうのです。

日本人は同じことをやるのにも他の先進諸国の人たちに比べるとあまりにも無駄な作業をやりすぎているというわかりやすい実例でした。

無駄な苦労を美徳と考える日本人

アウトプットを得るための作業量がインプットに比較して少なければ少ないほど労働生産性は高くなります。

日本以外の先進諸国の場合、日本と比べて労働時間は短く、大半のビジネスパーソンは定時で家路について有給休暇も全部消化します。そういう働き方ができるのも、作業する量を極力減らしているからこそです。無駄な仕事はなるべく省きますし、システムなど効率化できる道具を使いまくって楽をします。

日本人の感覚からすると怠けているようにしか見えませんが、生産性の向上という観点からいうと日本の何倍も高いわけです。働く人間だって使いすぎてしまえば機械のごとくすぐにすり減ってしまうし、疲れてくれば生産性は低下する。そうなるととうぜん士気も下がってくるので、少しでも仕事を減らすか効率化を追求したほうがいいに決まっています。

ところが日本人というのは、同じ結果を得るのにも、なるべく苦労すればするほどよいという考え方をしてしまいがちです。基本的にケチな国民性なので道具もあまり買いません。その結果、現場は疲弊して生産性は下がり、職場によっては“無駄なA3の紙”がどんどん積み上がっていくのです。

あえて作業ステップを複雑化させることで、仕事を一生懸命しているふうに見せているのでしょうか──それがないとは一概にいえないのがこわいところです。

日本は世界的にも豊かな国で一応技術立国ということになっているのですが、こと働くことに関しては科学的なアプローチからほど遠いところにいる不思議な人たちなのです。結果的にストレスや長時間労働で過労死も増えています。

このような誰ひとりとして幸せにならない働き方をしている日本人のことを、海外の人たちのなかには「頭がおかしいのでは……」とあざ笑う人もいるのです。