有事には政治とリーダーの決断が必要!

これまで主要国の中央銀行は、金融危機が起こるたびにカネを大量発行し、不況を最小限にとどめてきました。

しかし、新型コロナウイルスがもたらした金融危機は、従来のものとは次元が異なります。

生産や消費を担うヒトが動けなくなったわけですから、金融市場対策だけでは経済危機を止められません。そのため各国の政府は、財政資金を家計や中小・零細企業を中心とする多くの業種、地方自治体に投入せざるを得なくなりました。

コロナ・ショックは、経済政策面で考えると「富める階層のための財政・金融政策を一般国民向けへと、現代史上初めて転換させた」という意味で歴史的だと言えます。

しかし、日本政府の初期の経済対策を振り返ってみると、それはもうひどいものでした。

一言でいうと、ケチ臭い。

すったもんだの末に、2020年4月7日に発表された新型コロナウイルス感染症緊急経済対策は、事業規模が日本のGDP約540兆円の約2割に相当する108兆円をウリにしていました。安倍晋三首相(当時)は、世界最高水準の規模だと胸を張っていましたが、世間からはすこぶる不評でした。

それもそのはず、108兆円と言っておきながら、景気を押し上げるために実際に政府が使うおカネ、すなわちGDPに直接働きかける財政支出は14~15兆円くらいしかなかったからです。専門家たちの間で、いわゆる「真水」と呼ばれる財政支出がそれですが、この真水の金額が緊急経済対策において、もっとも重要な柱となります。

必要な量の真水を用意せず、見せかけの金額だけ膨らまして「GDPの2割もあるから安心してください」では話になりません。

▲安倍晋三前首相 出典:ウィキメディア・コモンズ

迅速性が求められる国民への現金給付に関しても、当初は所得制限を設けるか否かで、なかなか話がまとまらず、決定が遅れてしまいました。国民が結束しなければならない緊急事態時に「あの人はもらえるのに、私はもらえないかも……」と国民を不安にさせているようでは、結束なんてできるわけがありません。

また、現金給付よりも景気対策として即効性のある消費税の減税については、なんと3月の時点で早々に、麻生太郎財務大臣が否定的な見解を述べていました。

4月7日の緊急経済対策発表の際、政府は「世界経済が戦後最大の危機に直面している」との認識をはっきりと表明しています。

「戦後最大の危機」と言うのなら、それ相応の対応をしてしかるべきです。

政府がこのようにケチ臭い対応しかできなかった背景には、財政均衡絶対主義(緊縮財政・増税路線)の財務省の意思があります。

しかし、有事の際には官僚が得意とする平時のやり方では通用しません。

有事には有事に対応した政治の決断、リーダーの決断が必要です。

この緊急経済対策の一連の議論を通じて、とにかく政府にカネを使わせようとしない財務省の存在を、世間が多少なりとも認識するようになった印象を受けます。その意味でも、コロナ・ショックは日本国民が財務省の洗脳から“目覚める”いいキッカケになるかもしれません。

※本記事は、田村秀男:著『景気回復こそが国守り 脱中国、消費税減税で日本再興』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。