忘れてはいけないのが「アフター・コロナ」の日本の在り方だ。歴史家の八幡和郎氏に、今までの経験から、どう行動するのが日本の未来へと繋がるのかを聞いた。

※本記事は、八幡和郎著『日本人がコロナ戦争の勝者となる条件』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

台湾や韓国ではマイナンバー制度が功を奏した

中国・武漢での集団感染に始まる新型コロナウイルス騒動は、7月中旬の段階で世界の死者59万人、感染1400万人超といわれます。大変な数ですが、過去に人類を襲ったパンデミックに比べて、ずば抜けて多いわけではありません。

ただ、流行が世界第二の経済大国である中国に始まり、ついで、欧米先進国が中心だったことや、感染力の強さや病状の残酷さで世界を恐怖のどん底に突き落としました。日本では1000人ほどの死者数であり、なぜこの数字で収まっているかの定説はありません。

ただ、アジアでは致死率が低いことから「BCGを接種したからでないか」という説明もあります。とくに旧西ドイツより旧東ドイツのほうが少ないので説得力があります。日本では、中国発の感染が広く浅く拡がって、欧州発の凶暴なウイルスが来たときには免疫ができていた、という説もそれなりの説得力がありますが、ひとつの仮説です。

PCR検査は、検査の拡充が思うように進まなかったのは反省点ですが、それが流行の拡大につながったかは別です。精神衛生上の問題の域を出ないともいえ、そのやすめのために何兆円もかけて国民全員検査しろというのは愚劣です

▲PCR検査は根本的な解決にはならない イメージ:PIXTA

韓国が欧州発の第二波を日本よりも防げたのは、欧米から出入国を制限されていたことと、厳しい国民監視システムで帰国者などの感染ルートの把握や、自宅待機などが徹底できたおかげです。台湾や韓国では、マイナンバーカードの効率的な運用が徹底しています。

日本はヨーロッパに比べても制度が機能していないので、私は、せめてヨーロッパ並みにと長年、訴え続けてきましたが、国民が台湾や韓国のように効率的に感染防止を望むなら、台湾や韓国の厳しい制度をそのまま丸ごと採り入れるようにするのも選択肢です。

一方「自粛」やそれに伴う「補償」などは、コスト・パフォーマンスがあまりにも軽視されて、人々の生活や日本経済に深い傷跡を残すでしょう。厳しい自粛措置については結果から見れば、もっと緩やかでよかったかもしれませんが、3月に欧米からの波が押し寄せたときには、とりあえず防御態勢をとるのが常識的だったと思います。

しかし国民や企業の負担と財政との関係においても、コスト・パフォーマンスがよい方法を選ぶ観点がもう少し必要だったとは思います。現実には、無駄に自粛させて、無駄なバラマキをやりすぎています。とくに飲食業で営業の態様でなく、営業時間でしぼりをかけたのはバカげており、そのことが「補償要求」を呼び起こしました。

そもそも、安倍首相も「国民の皆さんにご迷惑をかけますが」などといっていたのは、間違いだったと思います。なにも政府が国民に迷惑をかけるわけではなく、国民がみずからを守るための指針を示しただけなのに、政府が謝ったりするから誤解が生じたのです。

また、経済的損失を被っていない人にまで支出をしたのも、国民の甘えを増長させたと思います。収入が減ってるわけでも、支出が増えているわけでもない人に、お金を政府から渡す理由がありません。ただ暗い気持ちを明るくする効果はあったかもしれません。