宇宙の始まりから、地球の誕生、生命の誕生まで――私たちが暮らす、この銀河系には誰かに話したくなる壮大なロマンや、まだ解明されていない不思議な世界が広がっている。宇宙科学界を牽引する学者・高橋典嗣氏が、最新の研究結果から地球がどのようにして生まれたのかを解説する。

※本記事は、高橋典嗣:著『地球進化46億年 地学、古生物、恐竜でたどる』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

名もない星の最期と太陽系の始まり

大きな質量をもつ星が生涯を終える際には、超新星爆発という大爆発を起こします。このとき、星をつくっていた大量の水素と、核融合で合成されたヘリウム・炭素・酸素・マグネシウム・鉄などの元素が、宇宙空間に放出され惑星状星雲ができ、その中心には中性子星やブラックホールがつくられます。

放出された星間ガスのなかには、爆発の瞬間にできた鉄よりも重い、金やウランなどすべての元素が含まれています。こうして、多くの元素が混ざった水素ガスができ、これが寄り集まってできた銀河系内の分子雲のなかで、太陽は形成されたのです。

▲46億年前に誕生した原始太陽を取り巻く回転円盤のイメージ ©NASA/JPL-Caltech

分子雲のなかで、とくに密度が高いところに周囲のガスが集まり、回転を始めます。ガスは回転円盤の中心に供給され、やがて上下方向にジェット(ガスとチリの流れ)が吹き出し、原始太陽が誕生します。

その後、中心部はしだいに高温・高圧の状態になっていき、中心温度が約1000万℃以上になるとジェットの吹き出しはなくなり、水素の核融合反応が起きて太陽が誕生したのです。

いっぽう、回転円盤のなかのガスが徐々に冷えてくると、たくさんのチリができ、それが寄り集まった塊が衝突・合体して、直径数km~10kmほどの微惑星が生まれます。微惑星はさらに衝突と合体を繰り返して、もっと大きな原始惑星へと成長していきます。

誕生した太陽から吹き出す太陽風によって、太陽周辺の星間ガスは吹き飛ばされ、火星までの惑星は岩石と金属からできた地球型惑星となり、それよりも遠い木星以遠の惑星は、星間ガスを惑星の大気に取り込んで、巨大ガス惑星や巨大氷惑星となりました。こうして生まれたのが、わたしたちの太陽系なのです。

では、なぜ太陽系が誕生したのが46億年前とわかるのでしょうか。それは、おもに隕石の生成年代を調べることでわかります。

熱による変成を受けていないコンドライトという隕石は、太陽系ができた頃のチリが集まってできた岩石だと考えられています。「ウラン・鉛年代測定法」という方法で隕石の年代を調べると、それは46億年前にできたものだとわかりました。

それよりも古い隕石は発見されていないため、太陽系の誕生は46億年前だと考えられているのです。

ドロドロで真っ赤なマグマに覆われていた原始地球

46億年前、誕生したばかりの地球は、ドロドロに溶けたマグマの海(マグマオーシャン)に覆われていました。

原始太陽系円盤のなかで微惑星の衝突と合体によって、しだいに大きくなり原始地球が形成されていきます。原始地球には次々と微惑星が落下、衝突していました。そのエネルギーが熱となり、地球は超高温の世界になっていたのです。

▲誕生したばかりの地球には、マグ マオーシャンの世界が広がっていました  ©Alamy/ アフロ

微惑星に含まれていた水酸化物が熱で分解され、マグマオーシャンからは大量の水蒸気が放出されて、地球の原始大気がつくられました。水蒸気の大気による温室効果で、原始地球の気温は高く、地表は岩石が溶け出す温度(融点)を超え、表面は溶けてできたマグマに覆われていました。これがマグマオーシャンです。

「マグマオーシャン仮説」が唱えられるようになったのは、1960~70年代にアメリカのアポロ宇宙船や、旧ソ連のルナ探査機によって400kg近い月の岩石のサンプルが持ち帰られ、月の起源や進化について研究が飛躍的に進んでからのことです。

地球から月を見たとき、白く輝いているのが「高地」と呼ばれる領域で、そこは深さ数10kmの斜長岩でできています。いっぽう、暗く見える「海」と呼ばれる領域は、黒っぽい玄武岩が、大きなクレーターを埋めるようにしてできています。

これらの月の岩石の特徴は、月が「誕生直後に数100kmの深さまで完全に液体だった時期がある」と考えると、うまく説明できます。

いっぽうで、地球と月は同じ時期にできたと考えられています。それならば、誕生したばかりの地球も、マグマオーシャンに覆われていたのではないだろうか? これが「地球も誕生直後にマグマオーシャンに覆われていた」という説が唱えられるきっかけとなりました。

地球に残っている最古の物質は、オーストラリア西部で見つかった「冥王代ジルコン」の約44億年前の鉱物で、マグマオーシャンだった頃の直接的な証拠はまだ見つかっていません。

原始地球の内部では、微惑星や隕石に含まれていた鉄やニッケルなどの重い物質が、地球の中心に沈んで核になりました。同時にケイ酸塩鉱物などの軽い物質が、マントルや地殻になり地球内部の層構造が形成されていきました。このときの地球はマグマオーシャンで、内部もドロドロに溶けていたと考えられています。