セオリー外のメンバー編成で与えるプレッシャー
2015年のワールドカップで、ラグビー日本代表に「ブライトンの奇跡」をもたらしたエディー・ジョーンズHC。日本を離れてからはイングランドへ。低迷するラグビーの母国を見事に再生させ、2019年のワールドカップ日本大会では準優勝となった。
オーソドックスなスタイルに捉われないという哲学を持ち、これまで数々の大勝負をモノにしてきた。そんなエディー氏の新刊『プレッシャーの力』(小社刊)にも詳しいが、グラウンドでの勝負に勝つために、試合前にさまざまなプレッシャーをかけ、心理戦を展開するのがエディー流。
日本時間の11月29日(日)午前1時にキックオフを迎える、オータムネーションズカップのウェールズ代表戦。登録23選手を発表した名将は、またしても周囲を驚かせた。
ベンチ登録の8選手は、基本的にフォワード5人、バックス3人というのがセオリーなのだが、この試合のベンチ登録選手は、フォワード6人、バックス2人という布陣だ。
「どこの誰が、ベンチには5人のフォワードと、3人のバックス選手を登録しなければならないと言いましたか? そんなルールはありませんよ。6人のフォワードと2人のバックス、あるいは7人のフォワードと1人のバックスを登録しても、何らルール違反ではありません。戦う相手と自分たちの状況を見て、正しいバランスを保てることが、強いチームの条件です」
過去にも、この布陣で挑んだ経験があるイングランド代表。要するに「この試合のイングランドは、フォワード戦を挑むぞ」と公式に発表しているのだ。もちろん、細かい戦術にいたるところまでは言わないし、バックスにも隠し球があるのは当然だ。だが、こうして試合前にオーソドックスではない手を見せるのは、心理戦の一つでもある。
この他にも、ラグビーというゲームを進化させるために数々の実験をこなし、世界に向けて提言し続けるジョーンズHC。この日の会見では、登録23選手は数日前に発表する必要があったとしても、スタメンの15人は当日に選んでもいいのではないか、とも提言。
昨年のワールドカップで準優勝となったイングランド代表。大会終了後からこれまでの戦績は6勝1敗と好調をキープ。
今年の2月2日に行われた、シックスネーションズ第1節でフランス代表に敗れたが、その後は6連勝中。中断を挟んで完結した2020年シックスネーションズは、イングランドとフランスが1敗同士で並んだが、得失点差でイングランドが優勝の座をもぎとった。
イングランドが次戦でウェールズを倒せば、日本時間12月6日(日)午後11時にキックオフを迎える、オータムネーションズカップの順位決定戦で、フランスと優勝を争うことになる。
名将に率いられた23人の選手たちが、どんな戦いを見せてくれるか注目したい。
12月21日に発売するエディー・ジョーンズHCの新刊『プレッシャーの力』(小社刊)は「プレッシャー」をキーワードに展開する、名将の指導論・勝負論・人生論。