各界の第一線で活躍する、あの人の「土壇場」はいつだったのか。そして、それをどう乗り切ったのか。今回は、ダイエーホークス(当時)から始まり、WBCの日本代表、そしてメジャーリーグへ。現在は「栃木ゴールデンブレーブス」に所属し、プロ野球生活21年目となる川﨑宗則さんに、野球選手だけでなくビジネスマンにも通じる仕事論を聞いた。
今は「戦う」状況じゃない
土壇場というのであれば、コロナ禍に見舞われた2020年は、日本いや世界中が「土壇場」にあるといえるだろう。野球界も例外ではなかった。プロ野球(NPB)の開幕は、6月中旬にまでずれ込んだ。2019年は台湾のプロ野球チームに籍を置いたムネリンこと川﨑宗則さん(39歳)は、新型コロナウイルスの影響で台湾に渡ることができなかった。現在は、独立リーグ・ルートインBCリーグの「栃木ゴールデンブレーブス」(栃木県)に所属する川﨑さんは、この状況をどう見ているのだろうか。
「ウイルスっていうのにも、きっと戦ってはいけないんだよ」。川﨑さんは新型コロナウイルスに、そんな考えを持っているようだ。
「この状況(コロナ禍)は本当にすごいことだと思うし、僕も、いろんな仕事とか台湾に行くことさえもダメになっちゃった。自分が病気をした時もそうだったんだけど、戦ってはいけないよね。『戦う』とか『負けない』とか。そういうのはやめてほしい。勝つ、負けるじゃないから」
相手、つまりはウイルスの特徴を知り「極力いい距離をとっていく」ことが大事だと川﨑さんはいう。「頭を柔らかく。ひらめきを大事にしてね。crunch(噛み砕く)っていうテーマに反するけど、歯を食いしばってはいけない。食いしばることでは、ひらめかないよ」。
独立リーグへの挑戦は「2秒で決めた」
川﨑さんは、いつも「ひらめき」や直感に頼ってきた。今回のゴールデンブレーブスへの合流も「2秒で決めた」。ソフトバンクホークスで、かつてコーチを務めた五十嵐章人さんから誘いの電話があった次の日には、九州を発っていた。
「『台湾に行く前に実戦練習をしてみない?』って言われたから『いいですね、それ。ちょうど練習したかったんです』って。いいタイミングでした」
敬愛するイチローさんにも報告。「いつでも練習を手伝うよ」そんな返事をもらった。8月末から数日間チームの練習に参加し「いいなと思った」という川﨑さんは、そのままチームと契約を交わした。9月からは試合にも出場。第1打席でいきなりホームランを放った。
進路を決めるとき、誰かに相談しないのか? そう尋ねると「相談する意味が分からない」と即答。「お金を使うことだったら嫁さんに相談しますよ。しないと怒られるから(笑)」。だが、それ以外のことはいつもひとりで決めてきた。
「ついつい先に行動が出ちゃうんです。だからよく痛い目に遭いますよ。行ってから苦労する。でも、次もきっと同じことをする。そっちのほうが性に合っているから。俺、計画を立ててもよいことないもの。だから、行ってみて、その場の雰囲気で!っていうのを繰り返しちゃう。それでいいと思う」
プロ野球から、アメリカ、カナダでメジャーリーガーとして戦い、台湾、そして独立リーグへ。新しい環境に次から次へと飛び込むことに躊躇がない。迷いが感じられない。見知らぬ土地で、知らない人たちの輪に溶け込むためのコツがあるのだろうか。
質問を投げかけてみると、ポジティブで明るいイメージのある川﨑さんでさえ、新しい環境に飛び込むのには「勇気がいる」という。
「でも、新しい場所に行こうって決めた時点で、その人は大丈夫。やるべきことは終わってるんです。行ってみたらいいの。あとはそこで時間をかけて仲良くなる人もいるし、最初から元気に挨拶できる人もいる。いろんなスタイルがあっていいんです。人見知りも、人が好きだから人見知りになるわけだからね」