長引く痛みの原因の大半が、痛む場所の近くにできたモヤッとした異常血管、通称「モヤモヤ血管」にあることがわかってきました。しかし、なぜ「モヤモヤ血管」はできてしまうのでしょうか? それには人間が持っている「体を正常に保つための機能」が関係していたのです。痛み治療を専門としている医師の奥野祐次氏が、そんな矛盾するメカニズムについて、わかりやすく解説してくれました。

※本記事は、奥野祐次:著『長引く痛みの原因は、血管が9割』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。

モヤモヤ血管が生まれるメカニズムとは?

みなさんもご存じのように、血管は体に栄養や酸素を供給するという非常に重要な役割を担っています。血管がないと私たちは生まれてくることができません。

しかし、すべての血管が重要であるわけではないのです。

人間の体には2通りの血管があります。生きるのに役に立つ正常な血管(生理的血管)と、病気を悪化させてしまう病的な血管(病的血管)です。

モヤモヤ血管は、後者の病的血管なのです。

秩序だった血管であれば、体の隅々まで栄養をいきわたらせるパイプとしての役割を果たすことができます。そのような血管は生理的血管なのです。

それに対して病的血管とは、ぐちゃぐちゃとした塊のような血管を指します。ぐちゃぐちゃとした状態であれば、正常に栄養分や酸素を配分する機能は期待できません。

モヤモヤとした血管(病的血管)は、どうしてできてしまうのでしょうか?

実は、この病的血管は簡単に作ることができます。「血管を新しく作りなさい」という指令を出す物質が過剰に生じると、ぐちゃぐちゃ、モヤモヤとした血管になるのです。

この物質は「血管内皮増殖因子(VEGF)」と言います。血管を作る細胞を「血管内皮細胞」と呼んでいるのですが、この血管内皮細胞が増えるように指令を出す物質がVEGFです。このVEGFが過剰に作られると、血管が一気に増えます。そのときにでき上がるのは、ぐちゃぐちゃとした病的血管なのです。

例えば、注射などでVEGFを体のどこかに無理やり投与すると、病的な血管ができます。またVEGFは、がん細胞からたくさん出ます。また炎症が起きているときもVEGFが過剰に出ています。このため、がんや炎症の部位にはモヤモヤ血管ができてしまうのです。

▲モヤモヤ血管が生まれるメカニズムとは? イメージ:PIXTA

MRIの検査でも見えないモヤモヤ血管

私はこれまで、たくさんの人にモヤモヤ血管をターゲットにして長引く痛みを治療してきました。その経験から、モヤモヤ血管が思ったよりも長い期間にわたり、体の中に居座ることがわかってきました。

1~2年は当たり前で、なかには10年以上の痛みの人でも、モヤモヤ血管が原因になっています。

ある女性は5年以上、原因不明の痛みに困っていました。でも実際にふたを開けてみたら、痛かった場所にはモヤモヤ血管があり、それを治療すると今までの痛みが改善しました。

ということは、5年以上にわたってモヤモヤ血管が、その場所に長く居座っていたことになります。ですが、実は10年以上に及ぶ痛みでも、モヤモヤ血管が見られることは珍しくありません 先日も18年間も右肩が痛い、特に就寝中に痛くなって困るという人がいらして、やはりモヤモヤ血管がありました。

こんなに長く原因が続くとは普通は思いませんよね。長引く痛みを専門にしているお医者さんが集う学会がいくつかありますが、最近の統一した意見は「長引いている痛みは、患者さんが痛いと言うところには特に原因はなく、脳や脊髄など中枢神経に異常がある」という説が主流になっています。

ですが「痛いと言うところには原因はない」と言い切る根拠はありません。モヤモヤ血管は、MRIの検査でも見えないことがほとんどですから、今まで調べられてきませんでした。長引く痛みの学問は、まさしくこれからスタートするのだと私は思っています。

▲MRIの検査でも見えないモヤモヤ血管 イメージ:PIXTA