「盗み取り現象」がモヤモヤ血管が長く居座る原因

発展途上国に寄付をしようとしても、途上国で暮らす貧しい人には届けられずに、一部のお金目当ての人に取られてしまう、そんな話を聞いたことがありませんか? 人から伝え聞いたことなので単なる噂かもしれませんが、ありそうな話だなと感じてしまいます。

血管にも、これと全く同じような「盗み取り現象」が起きてしまうことがあるのです。英語ではスティール現象といいます。血管の究極の目的は、酸素や栄養を全身に届けることです。この最終目的を担っているのが「毛細血管」です。

心臓から送り出された血液が、動脈を通ってさまざまな場所に運ばれて、最終的には毛細血管にたどり着きます。そして実際にここで血液がゆっくりと流れ、その間に栄養や酸素が配られます。

これこそが血管の目的であり、心臓が強靭なポンプの力で血液を送り出しているのも、このためです。毛細血管を通ったあとの血液は、静脈に集められ、心臓に帰っていきます。

ところが、せっかく心臓からはるばる送られてきた血液が、本来の目的を達せずに静脈に帰ってしまうことがあります。毛細血管の手前に、なにやらいびつな血管があって、動脈から静脈に直接つながっている場合があります。これがあるおかげで、その先の毛細血管の部分には血液が回ってきません。

このような動脈から静脈に直接流れ込むような血管を「動静脈短絡」と呼びます。この血管がまさしく血液の流れを手前で奪っている血管です。

▲「盗み取り現象」がモヤモヤ血管が長く居座る原因 イメージ:PIXTA

この血管があるとどうなるでしょうか? この先の組織は、血液が回ってこなくて酸素が足りていないために、血管が少ないんだと勘違いをして「新しい血管を作るように」という指令を出し、VEGFという物質を出します。

VEGFが出ると、新しく血管が増えますが、できた血管はモヤモヤ血管です。モヤモヤ血管は、ぐちゃぐちゃとしていてパイプとして機能しないので、余計に酸素が回ってこなくなります。

このため、組織はさらに「血管が足りない!」と勘違いしてしまいます。そして「さらに血管を作るように」という指令を出し続けます。こうしてモヤモヤ血管が長く居座るような悪循環の構造ができ上がります。

このような「盗み取り現象」は、長引く痛みの患者さんに頻繁に見られます。

そして、この「盗み取り現象」のせいで、モヤモヤ血管のある場所は、血管が多いにもかかわらず、酸素濃度が低いということが起きてしまいます。

低酸素で作られる乳酸などの物質は、痛みの原因になることが知られていますから、このような低酸素の環境も、モヤモヤ血管が痛みの原因となる理由なのです。

そして低酸素であれば、体はさらに血管を作るように働きかけます。このため、数年という長い間に渡って、モヤモヤ血管がずっと長く居座ってしまうのです。