新型コロナウイルスのワクチン開発が注目されていますが、ワクチンの効果を高めるためにも、また感染や重症化を防ぐためにも、最も重要なのは人間の体が持つ「自然免疫力」の力。自然免疫の要になるのは細胞内のマクロファージという物質です。

今から100年前に発見されたマクロファージですが、まさに「生体の防御の要」。なくては生きていけない細胞です。マクロファージを強化すれば、免疫力の強化はもちろん、多くの疾病の予防、改善に役立ちます。マクロファージの「正体」と、LPSという物質によるパワーアップ方法について、免疫学者の杣源一郎氏がわかりやすく解説します。

※本記事は、杣源一郎:著『免疫ビタミンLPSで新型コロナに克つ -感染症予防のカギは自然免疫にあり!-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

異物を“食べる”マクロファージの特殊能力

マクロファージは、自然免疫の中心的細胞で、異物を「食べてしまう」という特殊な機能を持っています。

異物とは、外部から侵入してきたウイルスや病原菌など。マクロファージは、人が生まれたときに持っていなかったものを、全て異物と判断することができます。また、体内から排出すべき老廃物や不要物なども、マクロファージの異物排除のターゲットです。

例えば、細胞の入れ替わりによる死んだ細胞、1日約5000個発生するガン細胞などの変質した細胞、認知症の原因といわれる脳に溜まった異常タンパク質(アミロイドβ)、変質した栄養素、血管に付着した酸化コレステロール、糖尿病の原因となるAGE(糖代謝最終物質)、腎臓結石、ヘルニアなどの変形した骨……。

これらを、“大食細胞”との別名を持つマクロファージが、アメーバのような動きをして即座にキャッチ。むしゃむしゃと貪食することで、処分(排除)します。ちなみに「マクロファージ」とは「マクロ=大きい」「ファージ=食べる」の意味で、文字通りの大食い細胞なのです。

▲大食細胞マクロファージの特殊能力 イメージ:PIXTA

体内において、ウイルスや細菌は当然排除されなくてはいけません。しかし、実はこれらの病原体よりも、量的には死んだ細胞など体内でできる老廃物のほうが圧倒的に多く、これらが病気や障害の原因になっています。

マクロファージは、がん細胞や酸化した脂質、変色したたんぱく質などの老廃物、ほこりに至るまで、体内にある不必要なものすべてを食べて処理をしてくれますから、マクロファージが正常に機能するということは、私たちの健康を維持するうえで、とても重要です。

生命の最小単位は細胞であり、ヒトは細胞が約37兆個からなると言われていますが、生物個体は、さまざまな構成要素が多数集合して、特定の動的状態を維持しているわけです。

そして、その動的状態がトラブルなく円滑に維持されている状態――それが健康ということにほかなりません。

私たちは日常、健康という状態が「当たり前」で、特別に大変なことだとは感じないでいますが、体の中において複雑な集合体が一定の秩序のもとに維持されるためには、やはり何らかの仕掛けが存在するはずです。そのような仕掛けを組み立てる鍵となる細胞こそが、マクロファージだと考えられます。