先行きの不透明な時代。学生は行事や授業が中止やリモートになったり、社会人は不安で、目の前のタスクを消化するのに精一杯。これまでとは違う“世界”になっていくウィズコロナ時代だからこそ、夢を追いかけるような気持ちになる人もいるでしょう。そんな今だからこそ、好きを仕事にしている人の真っ直ぐな生き方に学べることは大いにあるはずだ。

数々のアニメやゲームの背景を担当し、アーティストとのコラボなどでも活躍する背景イラストレーターmocha(モカ)。10月8日に最新画集『Empathy』(小社刊)が発売されるが、彼が風景や背景をメインにしたイラストを生業にしていこうと思ったきっかけはなんだったのか。これまでの経歴を伺いつつ、好きなものを仕事にしようと決めたときの心境、好きを仕事にしようとしている人への言葉、そしてイラストレーターを志している人へのアドバイスなど、好きを仕事にする経緯や決意、続けていくための秘訣を聞いてみました。

小学生の頃に褒められたことが自信になった

――絵を好きになったきっかけは、なんだったんですか?

mocha きっかけは小学生の頃、担任の先生にしっかり顔を見て褒めてもらったことですね。もっと小さい頃なら「よくできたね」と褒めてもらうことはあると思うんですが、成長してからしっかりと言ってもらえたあの瞬間、自分の中で小さな自信ができたような気がしました。

――このインタビューで初めてmochaさんを知った人は「背景イラストレーター」という肩書にまず目を引かれると思います。イラストのなかでも特に背景に心を奪われたのは、どういう経緯だったんですか?

mocha 新海誠さんの『秒速5センチメートル』を見て、ですね。僕らの世代で背景を志す人って、だいたい新海さんの影響を受けていると勝手に思ってるんですが(笑)。背景が違うだけで全然違う作品になるっていうのに気づいて、見る側が思っている以上に“背景の役割って大きいんだな”って感じたんですよね。

――それがきっかけで、アニメの背景会社に就職されるわけですか?

mocha いえ。その前、高校生の頃は造形に興味があって。でも、それを仕事にするってなると難しいかなって感じて、まず“ツブし”が効きそうな3Dが学べる専門学校に行こうと思ったんです。

――ツブし!?(笑) 高校生でそんなこと考えてたんですか?

mocha (笑)。ちょうどその頃、ゲームがすごい盛り上がってた時期で『ファイナルファンタジーX』とかかな? こういうのがこれからたくさん出てくるだろうな、ってのがあったんですよね。

――それで専門学校で3Dを勉強されて、そこから背景イラストレーターへの道筋っていうのは、新海さんの影響が大きいと。

mocha そうですね、もうひとつ、これは僕の感覚的な話なんですが、3Dでの作業に回りくどさがあったんですよね、慣れもあると思いますし、今は違うかもしれないですが、ここをイジりたいなってときに、まずパラメーターをいじって……とか、回り道が多い印象で、直感的じゃないなって思ったんです。そこでいうと、絵ってすごく直感的で。専門学校では3Dを学ぶところにいたので、いきなり方向転換したので、先生にはいろいろと無理を言ってしまったんですが(苦笑)。

――そうなんですね。

mocha いきなり「背景を描く仕事をしたい!」って、いち生徒がワガママを言ったのにも関わらず、担任の先生が、他の科にあるアニメの背景を描く授業に出させてくれるようにお願いしてくれたんです。他の先生も柔軟に対応してくれて、3Dの静止画作品を提出する課題に、2Dの背景イラストを提出してもいいと言ってくれました。言葉以上に行動で示してくれたようで、今でもずっと感謝しています。

――3Dに未練はなかったんですか?

mocha もしかしたら自分には向いてなかったのかも……と思いますね。もちろん突き詰めていけば出るものだと思うんですけど、個性を出しにくいなと感じて。個性を出せるところにまでいける自分を想像できなかった、というのが近いかもしれませんね。

自分を冷静に見つめたのが独立したきっかけ

――アニメの背景会社に就職しようと思った時点で、好きなものを仕事にしようと思うわけじゃないですか。そこに葛藤みたいなものはなかったんですか?

mocha その時点では葛藤のようなものはなかったです。専門学校に入った時点で、普通の大学に行くのとはワケが違うじゃないですか。大学だったら入ってから進路を決めることも可能だと思うんですけど、専門学校は自分で道を狭めにいって、その限られた選択肢の中から、どこに行こうか決めた感じです。専門学校に入って、そこから普通の仕事をやると思ったら、その専門に行ってた期間全てが無駄になるとは思わないですけど、ためにはなってないですよね。

――なるほど。その背景会社に決めた理由はあったんですか?

mocha 自分の好きなアニメの背景をやっている会社、というのも大きかったんですが、もうひとつは、その当時、その会社は少ない人数で回してて、たぶん一桁だったと思うんですけど、それで決めたところはあります。

――少人数がよかったんですか?

mocha そうですね、単純に大人数のところは合ってないんじゃないかなってのと、自分はずっと背景を志していた人から比べると、3Dをやっていた分だけハンデがあると思って。それだけに密度でいうと、すごく濃く勉強はしたんですけど、実質半年くらいしか背景の勉強をしてなかったんで、それで専門学校を出てすぐに戦力になれるかって言ったら、当たり前だけど戦力にはなれない。だから、人が少ない所であれば、それだけ教えてもらえるかな、って。

――実際に入ってみて仕事は楽しかったですか?

mocha はい。それと今と違って、いわゆる“背景の描き方”っていうのを載せてる本もホームページもほとんどなかったんですよ、どんなに探しても1つか2つくらいで。デッサンの描き方や、もっと初歩的な絵の書き方の本はあったんですけど。だから、吸収できることは全部吸収しようと思いました。当然、うまくいかないことも多かったんですけど、実践しながら直接教えてもらって、学べる環境っていうのは大きな財産でしたね。

――好きを仕事にする、ということで言ったら、その時点で十分仕事にできていると思うんですけど、そこから独立に向かうのは、何か転機があったんですか?

mocha 背景絵師のプロフェッショナルと呼ばれる方々っていうのは、もっと上にいて。じゃあそれに追いつけるか、って考えたときに、ちょっと難しいかなって。例えば絵のタッチでいうと、比べられないくらいどちらもすごいですけど、ジブリの絵と新海さんの絵って、普通の人が見ても明らかに違うじゃないですか。自分はどっちだろうって改めて考えたときに、新海さんのほうだなって思ったんですね。ジブリの絵はアナログをずっとやってきた人の絵で、あれに追いつこうと思ったら、他にも学ばないといけないことがたくさんあって、それは今からだと厳しいな、って。

――なるほど。

mocha それと会社に入りながら、サークルで自主制作をやっていたんですけど、すごく楽しかったんですね。そこがきっかけで、0から1を生み出す、オリジナルに興味が向いたっていうのもありました。