肩や腰などに長年痛みを抱えているけれど、病院へ行っても原因はわからずじまい。結局、鍼灸やマッサージなどで痛みを緩和しながら、ずるずると付き合うハメになってしまう…そんな悩みを抱えている人は、意外と多いもの。しかし、その“長引く痛み”の原因がようやくわかってきたのです! 痛み治療を専門としている医師の奥野祐次氏が、“長引く痛み”の正体について、解説してくれました。

※本記事は、奥野祐次:著『長引く痛みの原因は、血管が9割』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。

血管の流れを遮断しただけで“痛み”が減った

40歳女性で乳がんの患者さんを治療していたときのことです。生命保険のセールスをしているとても明るい人で、ご自身が乳がんになり、私の施設に治療を受けに来ていました。

当時は、だいたい1か月おきに診察をしていました。ある日、普段になく険しい表情をしていたので「どうかしましたか?」とお聞きしたところ「最近、左の肩が痛くて、ちょっとでも動かすと痛いのよ。顔も洗えないわ」とおっしゃっていました。

MRIを撮影したところ、がんが骨に転移したわけではないようで、どうやら「五十肩」になったことがわかりました。

その日も、いつもと同じようにカテーテルの治療を始めました。脇の下にある動脈から乳房のがんに栄養を送る血管が出ています。ここにカテーテルを運び、治療を済ませました。

カテーテル治療では全身麻酔は使わないので、患者さんと会話しながら治療を進めます。普段なら乳房のがんを治療して終わりですが、その日は「肩の血管も撮影してみましょう」という話になりました。

なぜかというと、肩の血管も乳房と同じく脇の下から出ていて、ちょうどすぐ近くにあったからです。カテーテルを少し動かして、造影剤を使って肩の関節に栄養を送る血管を撮影したところ、肩の一部に普通では見られないような「異常な血管」が見受けられました。

左側にある正常の肩の血管と比べると、モヤモヤと血管が増えてしまっていました。「モヤモヤした血管」は、がんでできる血管に似ていました。細かい血管がたくさん増えていたのです。

患者さんにはあらかじめ説明して、この血管の流れを遮断する薬を流しました。モヤモヤ血管の流れを遮断したのです。それで治療を終えました。ここには炎症が起きていてモヤモヤした血管ができている、この流れを遮断すれば、1か月くらいしたら痛みが緩和されるのではなかろうか、そう考えていました。

▲血管の流れを遮断しただけで“痛み”が減った イメージ:PIXTA

ところが意外なことが起きました。治療を終えてカテーテルを抜く頃に、患者さん自身が「先生、肩の痛みが全然違う! すごく楽!」とおっしゃったのです。

ほんの数分前に血管の流れを遮断しただけです。痛み止めや麻酔薬を使ったわけでもありません。それなのに、すでに痛みが良くなっているということがとても驚きでした。

帰るころには、頭のてっぺんを触れられるくらい肩が上がるようになっていました。そして1か月後にお会いしたときには、ほとんど五十肩の影響がなくなっていたのです。通常、五十肩の痛みは長く続き、最短でも9か月は痛いままなのに、です。

このことは、当時の私にとって少なからず衝撃でした。ひょっとすると痛みの場所には、あのようなモヤモヤした血管があって、そこに血液が流れていること自体が、痛みの原因になっているのではないか。だからこそ、その流れを遮断しただけで、あんなにも早く痛みが取れたのではないか。そういうことを考え始めたきっかけでした。