好きなように生きる「ならず者」への憧れ

――ここで話題を変えまして、フォトエッセイのビジュアルについてお聞きします。学生服に身を包んだ少年、うるわしきバーレスクのトップスター、憂いのある文豪など、まるで小説を読むような、溜息がでるほど美しい写真の数々ですね……。これらのなかで、中山さんが特に気に入っている写真は、どれですか?

中山 今回の取材の前に、改めて本を見返したのですが、一番好きなのは、このシーンですね。バーレスクの用心棒をしている「ならず者」という設定で。自分の今の心情に一番近いものが、これなんですよ。これはキネマ倶楽部で撮影したんですけど、同じ場所で撮影した別の写真もあります。そちらはスーツを着て表舞台で笑っている自分、みんなにキラキラを見せるための自分だけど、この写真の「ならず者」は、ありのまま、素のままで生きている。お金もあまりない設定だけど、きっと、こっちのほうが生き生きしていると思ったんですよね。幸せかどうかはわからないけど、でも自分の好きなように生きている。自分で演じているんですけど、憧れというか、こうなっていきたいなって思える写真です。

▲中山さんお気に入りのシーン

――撮影で、これは苦労した! というシーンはありますか。

苦労したシーンはやっぱりここですね。海!! 本当に寒かった……(笑)。自分よりもカメラマンさんのほうが大変だったとは思いますが、4月のまだ寒い海の中に入って、しかもけっこう深い所まで行って、波も強かったので……もう寒くて、どんな気持ちだったか、あまり思い出せないくらいです(笑)。

――『ヴェニスに死す』の主人公をオマージュしたシーンもとても素敵でした! 永遠に歳を取らない美少年という感じがして……心を掴まれました。

中山 ありがとうございます。生まれたときから男性として育っている男性は、力強い感じになるんですけど、女性に生まれて男性になっていくっていうのは、やはり限界があって、力強くならない、男らしい顔つきにならなかったりするんですよね。それはハンデでもあるけど、逆に捉えたら、永遠に少年でいられるとも言えるなって思って。それは自分の個性であり魅力になるのかもしれないと思いますね。

▲フォトエッセイ『無性愛』は9月17日発売!

――最後に、今後の「中山咲月」の活動として「こんなことをやっていきたい!」といった展望をお聞かせください。

中山 この本を出させてもらって、いろいろ考えたんですけど……。自分が最終的に目指す目標というか、こういう世界になって欲しいなと思うのは「女性だったけど男性になった俳優が、男性役をやります」じゃなくて「トランスジェンダーが男性役をやることも当たり前」になったらいいなって思います。特別なことじゃなくて、ちゃんと男性と並んで競い合っても大丈夫な世界になっていけたらいいなと。もちろん、トランスジェンダーじゃない男性が、女性の役をやってもいいと思うんですよ。男性が、女性がっていう分け方じゃなくて、性に囚われず、その役に合う人間という視点で決まるような世界になればいいなと思いますし、自分もそういう活動をしていきたいなと思います。

――中山さんがご活躍されて、トランスジェンダーということが話題にならないぐらい当たり前に男性の役をやっていくことで、そういった世界に向かう道標になっていける気がしますね! このたびは、貴重なお話をありがとうございました。フォトエッセイ『無性愛』が、多くの人の手元に届くことを祈りつつ、中山さんの今後のご活躍を、よりいっそう楽しみにしています。


〇中山咲月『無性愛』プロモーション動画02[movie wani]
プロフィール
 
中山 咲月(なかやま・さつき)
1998年9月17日生まれ、東京都出身。モデル・俳優。13歳でモデルデビュー、雑誌や広告で活躍。俳優として初出演した「中学聖日記」のジェンダーレスな役が話題に。2020年には「仮面ライダー ゼロワン」亡役に抜擢。2021年、日本の結婚観に一石を投じたオンライン演劇『スーパーフラットライフ』に出演し話題となった。
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