連続テレビ小説『エール』で魅せた圧倒的な歌唱力と、等身大にも見えるプリンス然としたお芝居でお茶の間を湧かせ、ドラマ・映画・舞台・歌手など多彩な活躍を続ける歌手で俳優の山崎育三郎さん。
コロナ禍にありながら、今年も彼のパフォーマンスは何度も話題になった。その勢いはとどまらず、11月7日(土)はライブイベント『山崎育三郎 THIS IS IKU 日本武道館』を開催し一夜限りのステージを披露するほか、12月2日(水)には森山直太朗さんが作詞作曲するニューシングル『君に伝えたいこと』をリリースする。
怒涛の活躍が続くなか、2016年に刊行した自叙伝『シラナイヨ』(小社刊)も電子書籍化され、制作時の思い出を振り返りつつ、コロナ禍における近況を教えていただいた。
準備をしているから大きな舞台でも緊張はしません
――今年に入って電子書籍化した自叙伝『シラナイヨ』。その刊行が2016年、ちょうど30歳になられた頃でした。この本にまつわる思い出はありますか?
山崎 ありがとうございます。『シラナイヨ』の制作でよく覚えているのは、写真撮影のために訪れた千葉で、温泉に入ったことです(笑)。海での写真撮影があったのですが、熱中しているうちにずぶ濡れになってしまって……。
「とりあえず、お風呂に入ろう!」と、スタッフとともに温泉に寄りました。それと、30歳で自叙伝を出版することに、どこか恥ずかしさがあって。「本当に、自叙伝でいいんですか?」と、何度も編集さんに聞いて……(笑)。ただ、なかなか自分の“これまで”を洗いざらい振り返る機会なんてありませんし、制作自体はとても有意義で楽しかったです。
――『シラナイヨ』の発売後、活動にも広がりがでてきました。
山崎 本を出版するまでは、ミュージカルばかりの人生でしたが、事務所も変わり「さあ、映像の世界に飛び込んでいくぞ!」というタイミングでした。そこで、ちょうど自分の30年の人生を振り返ることができ、まさに自分の中でも「第2章」がはじまる、といった感覚がありました。
――まさに今は「第2章」の真っただ中で、各方面でご活躍されてます。ご自身はどのように受け止めていますか?
山崎 おかげさまで、朝ドラをはじめとするドラマに出演させていただいたり、少し前の自分であれば想像もつかないようなお仕事ばかりなのですが、とにかく毎日がめまぐるしくて。ひとつひとつの現場で“感動”に浸りたいところなのですが、なかなか浸りきれないことがもどかしいです。
――ご自身のメンタル面では、どのような変化がありましたか?
山崎 これは自分の長所でもあると思うのですが、精神面での抑揚があまりないんです。常に何冊もの台本がカバンに入っていて、歌の練習も欠かすことはできない……。そうすると、もう少し追い詰められてもいいような気がするのですが(笑)。
仮に追い詰められたとしても、それが表情や態度に出ることがないんです。いつも、平常心。自分をよりよく見せようとせず、結果的にダメでもいいからと、素顔のまま「自分らしくいること」だけを意識しているからか、大きな舞台でも緊張はしません。
――それは、ご自身の“準備”がしっかりできていらっしゃるからではないでしょうか。
山崎 そうですね。まさに“準備”という部分は大きいかもしれません。僕たちの仕事は「お疲れ様でした!」と仕事を終えて、帰ってからが勝負なんです。台本を覚え、パフォーマンスの準備をして……。言い換えるなら、一人の時間こそが、いちばん大変な“仕事”なのかもしれません。
――今年も山崎さんの活動を通じて、歌の力や芸術の力で人は励まされるのだと実感しましたが、どのようにお感じですか?
山崎 もちろん、言葉でなにかを伝えることは大事ですし必要なことですが、音楽にはそれらを圧倒的に超えてくる“瞬間”があるんです。ミュージカルの魅力も、まさにそこにあります。お芝居の中で大事なところを音楽にのせて伝えることで、セリフとしてただ喋る以上に、観る人へ何かが伝わっていく……。
音楽の力って、本当にダイレクトなもので、音楽で救われる人は少なくないと思っていますし、コロナ禍だからこそ「音楽って、必要なものなんだ」ということを、肌で感じています。僕にとっての音楽とは、自分がどんな状況にあろうとも「いつも、やさしく自分に寄り添ってくれるもの」。嬉しい時も悲しい時も、常にそばにあって励ましてくれるんです。
もちろん、僕はその音楽を“発信”していく立場でもありますから、今だからこそ、たくさんの歌を届けていきたいですし、寄り添っていきたいと思っています。
※本記事は、WANI BOOKOUT <https://www.wanibookout.com/>【山崎育三郎さん・特別インタビュー】(2020年9月10日)を、加筆編集したものです。