2020年に放送された『仮面ライダーゼロワン』の亡(ナキ)役で話題に、俳優やモデルとしても活躍する中山咲月さんが9月17日に初のフォトエッセイ『無性愛』(小社刊)を発売する。今回、本の発売にあわせて公表した「無性愛者」ということについて、中山さんの胸の内を聞いてきました。
高校生の頃に「あれ? なんか自分おかしいな」と
――中山さんご自身が「自分は無性愛者だ」と感じるようになったのは、いつ頃のことでしょうか?
中山 明確なきっかけは覚えていないのですが、漠然と感じていたのは、本当に小さい頃からだと思います。学生時代に友達と話していると、恋愛の話題って絶対に出てきますよね。「誰が好きなの?」とか「どういう人が好きなの?」とか、絶対に聞かれる。小学生から中学生ぐらいの頃は、まだ自分の心も成長していなかったので、無性愛者だと気づいていなくて。そういった質問をされたときも、周りに合わせてなんとなく適当に答えてしまっていたんです。
高校生になってからは、お付き合いをする機会もあったのですが、それは好きだったからではなく、告白されて断れずに付き合ったというか……断る理由がなかったので、という感じでした。でも、付き合ってはみたものの、心ここにあらずで……。普通、付き合っている相手とスキンシップをするときって、ドキドキしたり、楽しい、うれしいという気持ちになったりすると思うのですが、自分は何も感じなかったんです。手をつなぐとかも、感情が揺れることなく普通にできてしまう。恋心というか、ときめきを感じない。そこでやっと「あれ? なんか自分おかしいな」と思うようになりました。
――お付き合いを経験したことで、自分の中の違和感にしっかり気づけたということなのですね。
中山 そうですね。それまでも、例えば少女漫画とかは読んでいたので、恋愛というものを第三者の視点では楽しんで見ていました。でも、いざ自分が当事者になったときに「これまで自分が見てきた恋愛ができないな」と気づいて。相手からもらっている恋愛感情を、同じ気持ちで返せない自分が申し訳なくなり、結局、お付き合いは終わりました。その後、人から恋愛感情を告白されると、恐怖心が生まれるようになってしまったんです。好意を寄せられているのに、なんで怖いのか自分でも理解できなくて……。「恋愛 怖い」などで検索して調べた結果、無性愛という言葉にたどり着きました。
――その恐怖心というのは、自分自身に対して恋愛感情や精的欲求を向けられることが怖かったのでしょうか? それとも、同じ気持ちを返せないことや、その気持ちを理解できないという怖さだったのでしょうか。
中山 理解できないという恐怖ですね。わからないものって、やっぱり怖いじゃないですか。それと同じ感情だったんだと思います。お化け屋敷に入っている状態じゃないですが、どこから何がくるかわからない恐怖心みたいなものに近かったと思います。
――自分が感じていた違和感は「無性愛というものなのだ」とわかったときの気持ちはどうでしたか?
中山 自分でも理解できなかった感情に名前がついたことで、居場所を見つけたというか、自分と同じ人がいるという安心感を感じましたね。同時に、無性愛を知ったことで「自分の中に恋心というものはない」ということがはっきりとわかりました。
――恋愛感情はなくても、親愛の情などはあるのでしょうか?
中山 友達に対しての親愛とか、家族愛はあります。告白していただいた人とお付き合いしたときも、その人に対しての愛情はあるんですよ。でもやっぱり、恋愛感情を向けられると、どうしてもダメで……。正直な話、行為や接触は我慢できるんです。もう無機質ですけど、ある程度は感情がなくてもできる。でも感情的な部分が……。「私のこと好き?」と聞かれるのが一番つらかったですね。嘘をついて答えるしかなかったので。でも嘘をついてしまう自分も嫌で、感情を偽るしかない関係もつらくて。なので「このままお付き合いしていたら嫌いになってしまうかもしれない」「あなたのことを嫌いになりたくない」と伝えて、お別れしましたね。
――お相手の方も、そのときはとてもつらかったと思いますけども、それを伝える中山さんもつらかったということがよくわかります。こういったことは、無性愛者であることの苦しみとも言えると思いますが、逆に、無性愛者でよかったなと感じることはありますか?
中山 ありますね! 自分が恋愛感情を持てないからなのか、誰か人と会うときに、相手のことを男性や女性として認識しません。男性だからこう接しようとか、女性だからこう接しよう、ということができない。性というものを意識できないんです。だからこそ、その人のことを一人の人間として先入観なく見られるので、その人が持っている良いところが、すごくわかるんですよね。だからなのか、昔から相談相手に選ばれやすいです(笑)。
――なるほど。男性はこうだ、女性はこうだ、というフィルターがないのですね。バイアスがかかっていないというか。
中山 そうなんだと思います。例えば、男性から「好きな人が男性で」という相談をされても「へぇ、そうなんだね」と普通に聞けちゃうんです。普通だったら男性は女性を好きになるものだ、という気持ちもないので。相談してきた人から「普通そういう反応しないんだよ」って言われちゃうくらい(笑)。いい意味でフィルターがないんだと思います。
「相談したときに良いアドバイスをしてくれる」と周りからよく言われるんですけど、それはもしかしたら、男性だから女性だからということではない視点で、冷静にアドバイスできるからなのかもしれません。恋愛でも、最終的に大事なのは性別ではなく、人間性ですもんね。
――それはお友達からしてもすごく頼りになる相談相手ですね!
中山 自分、役に立っているんじゃないかな? と思ったりしますね(笑)。