タイドラマブームの火付け役となった甘キュンBL『2gether』。原作はジッティレインによる同名小説で、日本では現在、漫画家の奥嶋ひろまさによるコミカライズ作品が好評を博している。そんな原作、ドラマとは違う漫画版『2gether』の魅力を、ドラマや舞台を中心に多数のインタビューやコラムを手掛け、ドラマをきっかけに「2gether沼」にハマったライターの横川良明氏に思う存分語っていただいた。

間を意識したコマ運びが読者の胸キュンを誘う

大好きな作品が漫画になる。それは、ワクワクするような気持ちと一緒に、ほんの少し不安が脳裏をかすめる。自分のイメージしていたものと違ったらどうしよう。大好きな世界が壊れてしまうのを見たくない。

そんな臆病な指先で開いたコミック版『2gether』は、細かいマイナーチェンジはあれど、作品への想いが伝わる、愛情たっぷりの世界だった。

まず目を引くのが、タインの描写だ。随所にギャグ絵も散りばめられた、表情豊かなタインは漫画らしくて、とってもコミカル。サラワットから送られてきた意地悪なメールに腹を立ててスマホにかじりついたり、グラサンで変装をしてサラワットの身辺調査をしたり。感情表現がストレートなタインの描き方が、出会ったばかりの頃のタインとサラワットの空気感を思い出させてくれて、微笑ましい気持ちになる。

▲『2gether』第1巻より ©ジッティレイン/奥嶋ひろまさ
▲『2gether』第1巻より ©ジッティレイン/奥嶋ひろまさ

 

そのなかで、漫画らしい間(ま)のとり方が、まだ恋の予感に気づいていないタインの気持ちを代弁してくれている。たとえば、サラワットに「カワイイ」と頭を撫でられたあとのちょっと赤くなった顔だったり。タインに宛てられた差し入れのメッセージを「こいつにはもう恋人がいる」とサラワットが書き換えたのを見つけたときの目を見開いた顔だったり。鼓動が一瞬跳ねる、その瞬間の高鳴りを、奥嶋ひろまさは、まるで時間が止まったような感覚まで伝わるように繊細に描きこむ。

▲『2gether』第1巻より ©ジッティレイン/奥嶋ひろまさ

この間(ま)を意識したコマ運びが効いているからこそ、少しずつ変わっていくタインの気持ちが、読者の思考回路に直接流し込まれているように、ありありと伝わってくるのだ。

そして、サラワットの表情の変化も、精緻にコマの中におさめられている。長い下まつげと細い眉が印象的な顔立ちは、ドラマと変わらないクールビューティーな美青年。センターで分けられたさらさらの髪も、サラワット役のブライトを彷彿とさせる。

▲『2gether』第1巻より ©ジッティレイン/奥嶋ひろまさ

そのなかで、つい愛らしさを感じ取ってしまうのが、何度か見せる照れた顔だ。特に印象的なのが、自分で買ったお菓子を「貰ったんだ」と嘘をついてタインに渡す場面。「君のファンは気前がいいね」とタインに言われて、背中越しに「あぁ」と返事をするサラワットの頬がかすかに赤く染まっている。

▲『2gether』第1巻より ©ジッティレイン/奥嶋ひろまさ

態度はぶっきらぼうだけど、本当はすごくタインのことを大切に想っている。そんなサラワットの気持ちを、この本を手にする多くの読者たちはすでにもう知っているからこそ、ちょっと気恥ずかしそうな顔にグッと来てしまうし、その表情を知っているのは読者だけという特別感に思わず頬が緩んでしまう。