TAIGAあややモノマネで大爆笑
ショーパブで連日開催されるモノマネショーはとても楽しかった。言ったら悪いが、全国的にはまったく無名の芸人でも、こんなにも面白いのだと驚いた。
サラリーマン時代と違って、仕事を心底楽しめた。当時のステージには、まだ売れる前ではあったが、佐賀県でお馴染みのはなわさん、あややのマネでブレイクする前田健さん、喋り芸の達人ホリさんなども出演していた。
名だたる実力派たちのなかで一際人気だったのが、テレビで見ない日はないほどの売れっ子になるコージー冨田さんだ。キサラのステージは１カ月前から予約が取れるシステムなのだが、コージーさんが出演する日のひと月前は、受付開始の15時から電話が鳴り止まなかったのをよく覚えている。
電話は２つしかないので、お客さんは通話中のツーツーという状態が続いても、根気よくかけ続けていたのだろう。運良くつながった人だけが予約を取れるのだが、いつも１時間もしないうちに１部２部ともに満席となっていた。
コージーさんのステージ１カ月前の日は、それを見越してアルバイトの人数を２人ほど増やしていた。電話予約にかかりきりになるスタッフが２人。その他の社員やアルバイトで掃除や営業準備を始めるのだが、営業が始まってしまえば、通常よりスタッフが多いので楽に仕事ができるのがうれしかった。
一方の俺はというと、ショーパブで毎日のように働くようになると、たまに入る芸能事務所からの仕事との両立が厳しくなる始末。事務所に辞めたいと連絡をすると、特に何を言われることもなかった。たいして仕事もないタレントが１人辞めるなんて、どうっていうことなかったんだろう。もう一つの事務所との契約も、ショーパブに入っていることを理由に仕事を断っていたら、気がついたら自然消滅していた。
武器も技術もない自分にできることは…？
ステージの下で、毎日モノマネショーを見ていた俺は、ようやくあることに気づいた。それは芸人さんたちの見せる芸のクオリティーの高さだ。
当時、地元の友達と飲みに行ったとき、俺が披露して笑わせたり盛り上げたりしてたのは、河村隆一さん、L'Arc〜en〜Cielのhydeさん、GACKTさんのモノマネなどなど。そんなことは、プロとして稼いでいるモノマネ芸人のほとんどができる初歩的なものだと知った。さらにクオリティーは俺より遥かに高かった。
ショックうんぬんよりも衝撃のほうが大きかった。どうやったらこのステージに上がることができるのか、毎日悩んだ。
似てるだけのモノマネならごまんといる。歌がうまいだけならごまんといる。面白いだけならごまんといる。たくさんのライバルがいるなかで売れるなんて、メチャクチャ難しいことだとわかっていく。
誰でもやっているベタなモノマネでは、ステージに上がったり、ましてや芸能界で売れるなんて夢のまた夢なんだと知る。どうしたら売れるのか。それは「自分にしかできないモノマネ」という武器を手にすることだ。
では、武器とはなんだろう。ひとつだけ可能性が高いレパートリーがあることに、俺は気がついた。他にやっている人が少なく、自分にしかできないもの。それが、キングオブロックンロール「エルヴィス・プレスリー」だ。
とはいえ、エルヴィスをショーパブでやってる人がいなかったのは、そもそも需要がなかったのかもしれない。エルヴィスが特に人気だったのは、俺たちの親よりさらに少し上の世代。ショーパブに来るお客さんの層に合ってなかったんだと思う。
でも、俺は昔からロックンロールやオールディーズが好きだったし、特にエルヴィスの音楽やパフォーマンスをマネしていた。彼のネタを軸にして、いろんなモノマネをからめれば、プロたちと勝負できるんじゃないかと確信に近い思いを抱いていた。
俺は面長で、どことなくエルヴィスに似ている。何より自分の好きな人のほうが、体重が乗っかって面白くなるはず。衣装やメイクを徹底的に寄せて、そして英語で歌って出てくればそれっぽくはなる。登場はエルヴィスで出て、そこからいろんなモノマネをすれば、そのあとのネタも似ていると思われるんじゃないか。
