春日をつれて夜の町へ

ショーパブの店員は、社員もアルバイトもわりと真面目な奴らが多かった。水商売歴のある俺からしたら「え? なんで君がショーパブで働いてるの?」という感じの真面目な子が多かった。

春日は芸人をやっているだけあって、どこかヤンチャそうな雰囲気があり、なにより話しをしていて面白い奴だった。当時、春日が組んでいたのはナイスミドルというコンビで、オードリーに改名するのは、その数年後になる。

春日は一緒にいて楽しい奴だったが、仕事はからきしダメだった。遅刻の常習犯で、さらにミスも多く、客に対しても気が利かない、使えないダメバイトの筆頭格で、当時の支配人にはひどく嫌われていた。

急なオーディションが入ることも多く、シフト変更もザラ。「もうクビでいいんじゃないか」と会議にかけられたのも一度や二度ではなかった。

ただ、確かに仕事はできなかったが、プライベートで一緒にいるぶんには楽しかった。春日に辞めてほしくなかった俺は「自分がなんとか教育するので辞めさせないでほしい」とお願いして、かろうじて首の皮一枚で繋ぎとめていた。

なぜか「TAIGAさん、TAIGAさん」と懐いてくれ、すぐに仕事終わりに飲みにいく仲になっていた。居酒屋、カラオケ、時にはキャバクラにもくりだした。俺はきっとあいつのマイペースなところが気に入ったんだと思う。

▲七三分けになる前の春日

ショーパブの店内会議は月一で行われていた。その日の会議も、春日の遅刻が多いことが議題に上がった。仕事も遅いし、言われたことしかできない。飲食・接客業に必要なのは、気を利かせて先回りすることなのだが、それができないのが致命的だった。

特に支配人は、急なシフト変更が多いことイライラしていたようだ。ついに「辞めてもらったほうがいいんじゃないか」と本気で言い出した。

その場にいたスタッフたちも、春日のことは嫌いではないが、やむを得ないのだろうなあという空気が漂っていた。

でも、俺はやっぱり春日と一緒に働きたかった。

「強くあいつを叱ります。次もこんな感じだと『ぶん殴るぞ!』くらい脅かしておきます。あいつは俺のいうことならちゃんと聞くんで、もう一度だけチャンスをあげてくれませんか」

支配人をはじめ、みんなに頭を下げると、TAIGAがそこまで言うならもう少しだけ様子を見ようかと納得してくれた。

それなのに……。