『スッキリ』(日本テレビ)のクイズッスコーナーで天の声ゴールドが紹介していた、ネタを書かない「バイきんぐ」のじゃないほう芸人・西村瑞樹が書いてしまった不思議なエッセイ。アラフォー芸人のリアル、ちょっとした事件、趣味のこと。有益な情報は一切ないが、なんだか読むとほっこり元気になれます(たぶん)。今回のテーマは、未だ夢に出てくるという8年間住んだボロアパートについて。
※本記事は、西村瑞樹:著『ジグソーパズル』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。
23歳から8年間住んだボロアパート
たまに昔、住んでいた家の夢を見ることがある。子供の頃に家族と住んでいた家ではなく、一人暮らしをしていたアパートの夢が多い。
そんな夢を見て目覚めた時はとてもノスタルジックな気分になる。そこを訪ねるまではいかなくとも今はどんな様子なのかなと想像したりする。
僕のなかで一番思い入れのある家は、コンビで上京して23歳から8年間住んだボロアパート。上京した日のことは鮮明に覚えている。
当時付き合っていた彼女のお母さんに「これでカーテンでも買いなさい」と頂いた餞別(せんべつ)を、東京に着いたその夜にフィリピンパブで豪遊して使い果たしてしまったのだ。
今考えると若気の至りだが、それにしてもよくそんなことができたものだ。
もしその瞬間に戻れるならば、どうせスケベ面してキープしたであろう焼酎ボトルで若かりし自分をぶん殴ってやりたい。
こうしてカーテンなしで始まったこのアパートでの生活。
もともと掃除が嫌いな僕の部屋は次第に散らかっていき、3年目には足の踏み場もないほどになり、人が来た時だけ物を端に寄せ、ブルーシートで覆い隠すようになった。来た友人には「死体でも隠しているのか?」と必ず言われたものだ。
ただ、このセリフはあながち間違ってはいなかった。
なぜならある日、部屋の玄関の扉を開けると猫が死んでいたことがあった。
猫は死ぬ前に姿を消すというのを聞いたことがあるけど、何もよそ様の玄関先を死に場所に選ばなくてもいいじゃないかと思った。
でもさすがにかわいそうなので玄関先の土のスペースに埋めてあげたから、結局死骸を隠していることになる。
どうやら僕は動物の死骸を引きつけてしまうみたいで、いつかの単独ライブの幕間(まくあい)映像の撮影では、公園で巨大シャボン玉を作ってそのシャボン玉を追いかけた先にハトの死骸があったり、沖縄でウミガメの産卵が見られるという無人島にキャンプをしに行くと、着いた砂浜にウミガメのミイラがあったりと。
そして、このアパートも生活7年目にもなるといよいよ玄関のドアも閉められなくなり、最終的にはまさかの土足で生活するようになった。人はあまりにも部屋が汚すぎると脳が屋外だと認識してしまうのかもしれない。
あと、時々見覚えのない足跡があったりしたけれど、これはおそらくこの辺の土地勘のある人がショートカットで部屋を通り抜けていたのではないかという説が有力視されている。
ああ懐かしい。懐かしさがこみ上げてくると、あのアパートを訪ねてみたくなってきた。いったい今はどんな人が住んでいるのだろうか?
訪ねるとテンションが上がってピンポンを鳴らしてしまうのかな?
もしかしたらあなたが今住んでいるその部屋、僕が住んでいた部屋かもしれない。