人間の染色体の末端にある構造で、染色体同士がくっついたりしないように保護する役割がある「テロメア」。日常生活を制限されずに生活できる期間を「健康寿命」と言いますが、この健康寿命の延伸において注目を集めているのが「テロメア」だそう。細胞分裂のたびにテロメアは短くなり、ある程度まで短くなると細胞は分裂をやめてしまう。細胞分裂が行われないと、人間は老化してしまうので、健康寿命を長く保つためには「テロメア」の長さが重要なのです。
ではそのテロメアを長く保つにはどうしたらいいのか、そして元から短い人は諦めるしかないのか……。ハーバード大学、ソルボンヌ大学の客員教授などをつとめ、ノーベル賞受賞学者とも共同研究を行う根来秀行氏が解説します。
※本記事は、根来秀行:著『老化は予防できる、治療できる - テロメアをムダ使いしない生き方 -』(ワニプラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
テロメアの長さは生活習慣の影響を受ける
テロメアは「健康寿命の指標」ととらえ、テロメアをムダ使いしない生活を心がけることが大切です。しかし、次のような疑問を抱いた方もいるかもしれません。
「テロメアの長さは生まれつき決まっているのでは?」
「テロメアの長さが生まれつき決まっているのなら、生活習慣を変えたところでテロメアにはとくに影響はないのでは?」
たしかに、テロメアの長さは生まれつき長い人もいれば、比較的短い人もいることがわかっています。たとえば、ウエルナー症候群という難病があります。
これは、1900年代初頭にドイツの医師オットー・ウェルナーにより報告された遺伝病です。思春期ごろに発育が止まり、白髪、脱毛、両目の白内障、筋肉の萎縮、皮膚の乾燥などが起きて老化しているように見えることから、「早老症」の1つといわれています。
このウエルナー症候群の患者さんのテロメアは、同年代の正常な人のテロメアよりも短いという報告があります。
こんな研究もあります。イギリスのニューカッスル大学と慶應義塾大学の共同研究チームが、100歳以上の長寿者とその家族(子どもら直系子孫)ら1500人を対象に調査分析した結果、
・100歳以上の長寿者はテロメアが長いこと
・長寿者やその家族では、実際の年齢が80歳代でも、テロメアは60歳代の平均値に匹敵する長さを保っていることがわかりました。
こうした報告を聞く限り、テロメアの長さは生まれつきで、生活習慣を変えるといった程度の努力では、どうにもならないように思えます。しかし、それは間違いです。テロメアはたしかに、生活習慣の影響も受けているのです。その証拠に、
・たばこを毎日20本吸う生活を10年つづけた人は、たばこを吸わない人よりもテロメアが5歳分短い
・肥満の人は8歳分、運動習慣がない人は10歳分、そうでない人と比べてテロメアが短いという報告があります。
“見た目の年齢”とテロメアの長さは比例している!?
たばこ、肥満、運動不足のほかに、日焼けもテロメアを短くします。
日光を浴びがちな首などの皮膚と、日光を浴びる機会がほとんどないおしりなどの皮膚を比較したところ、首の表面の細胞ではテロメアの摩耗が確認されました。
しかし、おしりの表面の細胞のテロメアは、加齢にかかわらず摩耗がほとんど認められなかったそうです。
テロメアが生まれつき長くても、喫煙、肥満、運動不足、日焼けなどが重なればテロメアの短縮は進み、健康寿命も短くなるでしょう。
反対に、テロメアが生まれつきそれほど長くなかったとしても、生活習慣に気をつけることでテロメアが短くなるスピードを遅くすることはできます。
現時点での自分のテロメアの長さが気になる方は、最近はテロメアの長さを測る検査がありますので、そちらを利用してみてもいいかもしれません。あるいは、「見た目年齢」でチェックするという手もあります。
こんなおもしろい研究があります。
テロメアの長さと見た目年齢が関係するかどうか、双子を対象とした研究がデンマークで実施されました。その研究は、看護師、若い男子学生、高齢女性の3つのグループが、70歳以上の双子1826人の「見た目年齢」を予測するというものでした。
もちろん、どのグループの参加者も双子の実年齢は知りません。実験の結果、実年齢よりも若く見えた人ほど長生きする傾向にあり、テロメアが長い、あるいは、短いテロメアが少ないことがわかったのです。
実年齢よりも老けて見られがちな人や、数年前の写真といまの自分とを見比べて「老けた」と感じたら、それはテロメアが短くなっているサインかもしれません。
では、テロメアをムダ使いしないためには、生活習慣をどのように改善すればいいのでしょうか。
私はまずは、「炎症」「糖化」「酸化」の3点をできる限り防ぐことが肝要だと考えています。