気負いと焦りから後輩を問い詰めた結果・・・

移籍したオスカープロモーションという事務所は、人気タレントやモデルを多く抱えていたものの、俺たち所属芸人は当時、他の事務所の芸人からナメられていたように思う。お笑い芸人をどうやって売るの? と周囲の芸人は思っていたようだ。

実際、お笑いに関してはそれまで何も結果を出していない事務所だったので、そこに入った芸人は下に見られていたのは間違いない。

俺はそれが悔しかった。やっと入れた大手事務所。お笑いでは後発かもしれないけど、俺は何度かテレビに出ていたし、賞レースで準決勝に行った実績もある。他事務所の芸人に負けないくらいの結果を残しているという自負もあった。オスカーにも面白い芸人はいることを証明したい。負けん気の強い俺は、オスカーを盛り上げたい気持ちでいっぱいだった。

それは『とんねるずの細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』のオーディションに向かってるときのことだった。お台場まで向かうゆりかもめに事務所の後輩が乗ってきた。どうやら同じオーディションに向かう途中らしい。俺は世間話程度に話しかける。

「今日のオーディションはどんなネタやるの?」

「アンパンマンのモノマネです」

「え? アンパンマン?」

俺は目が点になった。アンパンマン。誰もが知る国民的アニメである。俺は一瞬にして頭に血が上った。

「アンパンマンのモノマネで、あの番組に受かると思う?」
「どんな番組か知ってるのか?」
「そもそも番組を見たことあるのか?」

矢継ぎ早に問い詰めてしまった。そのときの心情はハッキリと覚えている。オスカーの芸人はこんなゆるいネタでオーディションに来たのか、そう思われたくなかったのだ。オスカーをまとめるのは俺しかいない。そう気負っていたんだろう。

「すいません……最近はほとんど番組見てないです……」

「番組の趣旨もわかってない奴がオーディション受かるか?」

昼間の電車内、真顔で説教をする俺の顔がよほど恐ろしかったんだろう。後輩の顔からどんどん血の気がひくのがわかった。しばらくすると、顔色が真っ白になったのがわかった……バタン。彼は貧血で倒れてしまった。