直営業も「勝手にどうぞ」

2011年の俺は、例年とは違った。

ついに自信のあるネタができたからだ。俺の昭和顔を生かした80年代のトレンディドラマ仕立てのコントは、毎年2回戦落ちをしていたR-1ぐらんぷりの1回戦で爆笑をかっさらった。ライブに積極的に出てはネタを練り上げたこともあり、高い壁だった3回戦も突破し、初の準決勝進出。所属事務所のオスカープロモーションでは、初の準決勝進出芸人だ。年明け早々の予選に落ちて、みじめな気分で新年を過ごさなくて済んだのがうれしかった。

自分の中で練りに練ったネタは、準決勝でも爆発的にウケた。しかし、それ以上に観客を沸かせていたのが、クズ芸でおなじみのキャプテン渡辺さんだった。昔からライブでご一緒させてもらうことも多く、良きライバルだと思っていた。

R-1は準決勝が終わると、その場で結果が発表される。芸人仲間からも「決勝に行ったんじゃない?」と言われ、気分は上がる。決勝進出者はその様子をカメラに抜かれるとあって、近くに座っていればテレビに映るかもしれないと、仲が良い芸人のくじらたちが俺の近くに群がってきた。キャプテン渡辺さんの名前も呼ばれ、喜びをかみしめている。

結果から言うと、俺の名前は呼ばれなかった。俺は周りの芸人に期待させてしまったことを詫びつつ、手応えは感じていた。しっかりとしたネタを作れば、この場所までこれる。それは自信になった。また来年に向けて頑張ろう。

一方、この頃になると、お笑いで成功例のない事務所に所属するメリットとデメリットに気づいていた。

オスカーという事務所は、とても立派な事務所だった。ドラマのちょい役やモデルさん、グラビアアイドルさんのイベントMCなど、弱小事務所では考えられないような仕事がどんどん入る。小さなドラマの役でも、ねじ込んでくれる。

ただ、お笑いのことは全くというほどわかっていないので、芸事に関するアドバイスは期待はできない。しばらく前に大問題になった直営業も「勝手にやっていいよ」というスタンスだった。よく言えば寛大なのだろうが、相手にされていないと言えばそれまでだった。