日本で暮らしていると、街行く人の服装をチェックしたり、他人の身なりに口を出す人をたまに見かけることがある。自分も言われたことがあるなんて人もいるのではないだろうか。人の目を気にせず、何にも縛られないで生きられる欧米はうらやましい……。しかし、そんな欧米の一国・フランスでは、日本よりもはるかに厳しく身なりをチェックされるのが日常なのだ。
※本記事は、谷本真由美:著『世界のニュースを日本人は何も知らない3- 大変革期にやりたい放題の海外事情 -』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
フランスは「同調圧力」がものすごい
日本人で出羽守(でわのかみ)といわれる方のなかには「フランスは日本より自由! みんな好きな服を着て好きなメイクをし、同調圧力がなくて自由なの。さすが大人の国ね!」と言い張る方がいます。そのような方はおしなべてヨーロッパへの滞在時間が短く、さらに普段は日本人としか付き合っていないのかもしれません。
フランス人は他人の見た目に対しておそろしく同調圧力が強く、特に女性に対しては日本以上に要求が厳しいです。フランスでは女性は肌を見せるのが当たり前で、見せない人はおかしいと思われる文化があります。それが若い人だけではなく、ある程度年齢がいった人でも同じです。
日本なら中年や熟年の女性が胸の開いたシャツを着ているとギョッとします。水着も胸を強調したり、お尻のカットが深かったりすると、日本ではとても着られません。そのすべてを着るのがフランス人です。
なぜフランス人女性は肌を出すのが当たり前なのか──。
それは1960年代に盛んだった「古いフェミニズム運動」の名残なのです。当時のヨーロッパではフランスだけではなく、ほかの国でも女性の解放運動が盛んでした。
それまでは肌の露出が控えめでスカート丈も長く、ふんわりとしたブラウスやワンピースがファッションの主流でした。性の解放の流れを受けて体の線を出す、短いスカート丈、これらが「女性が自主的に自分の個性を主張する権利」の象徴となったのです。
その流れを受けてイタリアやスペインでもフランスと同様に肌を露出するファッションが自由のシンボルとなります。トップレスが流行ったのもそのトレンドに沿ったもので、肌の露出を避ける人は「自由を否定している」とみられてしまうのです。
そのため、フランスではイスラム教女性が公的な場でニカブやヒジャブといった顔や髪の毛を隠す被り物をすることを禁止し、プールでも全身を覆うイスラム教の女性用水着やウェットスーツのような感じのブルキニを禁止する自治体もあります。
とはいえ、このような流れは今の若い人の間では下火です。彼女らは自然なフェミニズムを好み露出系のファッションよりもゆったりした服やボーイッシュな服、スポーツウェア系が人気でトップレスも減っています。
このように若い人の意識が変わる一方、オフィスや公の場では女性は常にセクシーでなければならない、という意識が根強く残っているのです。
フランスでは人の目を気にしすぎて精神的な疲労がスゴイ
フランスの職場ではきれいな格好をしていないと周囲から白い目で見られ、髪型や服装にはかなり気を遣っていて日本よりもはるかにたいへんです。フランス人自身もこれはけっこうつらいようで、私が職場で親しくしていたボルドー出身の中年女性はこう嘆いていました。
「フランスではいつもきれいな格好しなくちゃならないでしょ。だから洋服代がバカにならないのよ。アメリカ人やイギリス人だらけだと本当に楽でいいわ。みんな酷(ひど)い格好だから美しくはないけど、私も気楽だしお金がかからないもの」
日本のフランス系企業でもこれは変わりません。以下は私の知人で長年フランス系の会社に勤務していた方の意見です。
「あなたね、フランスの会社はたいへんなのよ。こういうタイトスカートをはいてないといろいろ言われちゃうし。靴とか時計も細かく見てくるし、服がどうだってボスに言われるのよね。ホントに面倒くさいわ。あまりにもうるさすぎるから、あたし英米系の会社に転職したの」
英米系の会社で特にIT系や在宅勤務が多いところでは、オフィスでもポロシャツやユニクロ系のカジュアル、時にはジーンズが当たり前だったりするので自国とは違いすぎです。
フランス人は自分だけではなく他人の服や髪型、スタイルから歩き方まで気になるらしく、ほかのフランス人と雑談していても延々と他人の観察について話しています。
「あの人、歩き方がおかしいわ」
「机のインテリアが酷い」
「話し方にエレガントさがない」
「彼、髪型を変えたわね。素敵!」
「あれゴルチエの新しいのよね」
といった具合です。
机の上を美しく保つことや、オフィスの装飾にもかなり気を遣います。テレビに登場するフランスのオフィスが美しかったり、フランスの家屋の内装や庭がキレイだったりするのも他人の目を気にしているからです。
その点、日本は他人に興味がありながら見た目や家の内・外にはあまりこだわらない人が多いですね。フランスの感覚では「えっ!?」と叫びたくなるような雑然とした部屋や、庭や玄関、服装の人がいるので、日本は意外と他人の目を気にしない国なのかもしれません。