安定感のあるしゃべくり漫才が魅力的な漫才師・銀シャリ。『M‒1グランプリ2016』優勝後、全国ツアーをコンスタントに続けており、今年はコンビ20周年を記念して15会場を巡る全国ツアー『純米大吟醸』の真っ只中。その他、何年もかけて47都道府県を巡るライブ『銀シャリの産地直送漫才~47都道府県巡り』も開催中と、精力的にネタライブを開催。
この『芸人通信』には2017年にも登場いただいているのだが、その頃と、志や漫才へのスタンスは変わらない様子。年齢や芸歴を重ねた今も「ネタが一番楽しい」「ふたりが最高」と笑顔で語った。
※本記事は『+act.(プラスアクト)2025年8月号』(ワニブックス:刊)より、一部を抜粋編集したものです。
今回初めてオンライン配信するんです
――現在、コンビ結成20周年を記念した全国ツアーの真っ只中です。
鰻和弘(以下、鰻):20周年ではあるんですけど、47都道府県を回るライブもやってるので特別なことではないというか。毎年楽しいですしね。
橋本直(以下、橋本):他のライブでも感じることですけど、オンライン配信や毎年ツアーを開催とかいろんな要素でライブを観に来てくれる人が増えたらいいなと。47都道府県も回らせてもらっているお陰で、YouTubeで撮影させてもらったお店の方から単独ライブにお花を贈っていただいたり、観に来ていただいたりしているのもありがたい。
新たな人との繋がりもできている感じがしています。全国ツアーのほうは昨年キャパを増やして1万人動員して、さらに今年は1万人を超える動員になりそうなんですけど、最終日のNGKを今回初めてオンライン配信するんです。生で観ていただきたいという気持ちがあって(配信は)やってなかったんですけど、20周年ですし、複数公演があっても来られない方もいらっしゃったのかなと思って。
――長期間開催していても、タイミングが合わないことはありますもんね。
橋本:はい。もう1回観たいけど遠征するのはちょっと…という人もいるでしょうし、家でゆっくり見たい人もいるかもしれない。今回の配信をどれだけ見てもらえるかにもよりますけど、ニーズがあるんだとわかれば21周年目も配信するかもしれないです。今年はツアーが長いんで、中でネタを変えることもあり得るんかなと。変えますと大々的には言わないですけど、違う可能性はあります。
鰻:それは十分あります。僕は変えられたらいいなとも思いますし。
橋本:昨年は途中で(幕間の)VTRも2回くらい変えたりもしたんで、その辺はガチャ的に楽しんでもらいたいですね。
――途中での変更もあるということは、普段からネタをつくるタイミングを設けているということですか? それとも、思いついた時にどんどんつくっていくんですか?
鰻:僕らは後者です。常につくってるというか。ネタづくりは好きでやってることですからね。
橋本:ツアー前も一気に6本とかつくるわけじゃないというか。単独ライブがあるからネタをつくるというより、常にいいネタが欲しい、いいネタをつくりたいと思っているんです。締め切りとか何もない時のほうがリラックスして、いいものが生まれたりするじゃないですか。いいネタができると、テンションが上がりますしね。
――ネタを台本に起こさないというのは今も変わらないですか?
橋本:自分でちょっとしたネタの種みたいなのはメモしてますけど、ないですね。ふたりでは口で合わせたものをやるだけなので。
鰻:本番中、最初と違うふうになっていくこともあるので。変わってもいいし、最初より長くなる時もありますし。
――ということは、ライブも想定よりオーバーすることが多いんですか。
橋本:全部オーバーしているかもしれない。90分予定で、みなさんの予定も考えて最長でも20分オーバーくらいですけど。
鰻:2時間以内ですね。ほんまは90分でちゃんと終わりたいんですけど、なかなか難しくて。
橋本:けど、90分ライブで時間ぴったりに終わるとなんかなぁ…みたいな気持ちってないですか? 90分で終わるのと20分オーバーして110分で終わるのと、どっちがいいんやろ? 長いほうが喜ばれることもあるし。
鰻:逆に、長いとしんどい時もあるやんか。僕はだいたいの時間はわかっておきたいんで、芝居を観に行って終わり時間がわからへんと困るというか。
橋本:僕は90分で終わったとして、他の会場は20分オーバーしてたとか聞いたら、今回は盛り上がってなかったんかなとか思ってしまう。意図してオーバーはしないですけど、盛り上がったからオーバーしてしまった状況が一番いいと思うんですよね。
鰻:確かにそうやな。
橋本:やから、今回もそれくらいの時間の余裕を持ってもらえたらありがたいです。
何よりふたりって最高ですよね
――最初にも話されていましたが、おふたりがコンビを組まれた20年前に比べて、会場へ足を運んでお笑いを観ようとする人は確実に増えましたよね。
橋本:生のライブの価値が上がって嬉しいです。(単独ライブは)一番仕事してるという感じがします。だって、誰にも邪魔されないじゃないですか。テレビはめっちゃ好きですけど、雛壇にいると遠慮せなあかんこともあるというか。MCの人との関係性とかもあるし、これ言いたいけどさっき2回喋ったから(発言するのを)やめようかとか脳がずっとしんどいんです。けど、単独ライブは僕が喋りたかったら喋ればいい。鰻が喋ってても引く必要がないし、被っててもいいし。
鰻:橋本はいつも言いたいこと言ってます。まぁ、お互い様やけど。
橋本:テレビではなかなか全解放できないんですけど、単独ライブはできる。何よりふたりって最高ですよね。ひとりも孤独さと楽しさがありますけど、ふたりが一番、最大…なんて言うんですかね?
――2017年、芸人通信に初登場いただいた際も「コンビは最小公倍数の誰にも邪魔されないもの」だと話していました。変わらない思いなんですね。
橋本:しかも、目の前にお客さんがいて言った瞬間にミスったかどうかがわかるし、面白ければドカンとウケる。自分を全解放できるだけじゃなく、こんなにもわかりやすくて、お客さんも楽しみにしてくれていて1万人くらいが足を運んでくれる。さらに、お金もいただける。いい仕事です。漫才が本業でよかった。母体があってよかったですね。
――ふたりとも漫才が好きでよかったですね。片方がそうじゃないと苦しみが生まれそうじゃないですか。
鰻:あぁ、ほんまにそうですね。
橋本:最初はテレビに出たくてお笑いの世界に入りましたけど、こんなに漫才が…。言ったら、ネタって最初は世に出るための手段じゃないですか。こんなに漫才が好きになるとは思ってなかったですし、運がよかった。漫才に向いててよかったです。
鰻:僕も漫才は好きですね。お客さんの反応がすぐ返ってきますし。
橋本:それ、俺がさっき言うた。違う観点から語れよ。
鰻:(笑)。全部言うから残ってないねん。…まぁ、ほんまにいいですよ。素のまんまで舞台に出られるのも楽しいです。自分をつくってないですから。
橋本:人のせいにできないところもいい。テレビでうまくいかなかった時も、まぁ、漫才あるしなって思える。心の拠りどころにもなってますね。