社会のアンダーグラウンドを長年取材してきた村田らむが綴る、想像さえできなかった《人間の狂気》を感じる人怖(ヒトコワ)物語。

何気ないはずの日常を一瞬にして恐怖へと陥れる実際にあった出来事…。真の恐ろしさと不気味な後味を残す、神社で巫女をしている女性の人怖物語。

※本記事は、村田らむ:著『人怖2 人間の深淵なる闇に触れた瞬間』(竹書房:)より一部を抜粋編集したものです。

赤ちゃんを抱いた異様な女性が近づいてきて…

九州地方の神社で巫女をしている女性に話を伺った。

▲神社の巫女 イメー:emmaniel / PIXTA

ある日、社務所で作業をしていると、事務仕事をしていた仲の良い巫女のNさんが、突然大慌てで奥に逃げ込んで行ったんです。

私、ビックリしちゃって。何だろう?と思って、直前の彼女の視線を追ってみたら、女性がこちらに歩いてきてるんです。腕には赤ちゃんを抱いていました。

対応しなきゃと思い近づくと、その女性の見た目が私服を着ている時のNさんにソックリなんです。

そして赤ちゃんを抱く腕には、幾重にも重なる生々しいリストカットの跡が……。

「私はNさんの友だちです。Nさんを呼んでもらってもいいですか?」

口調は優しかったのですが、Nさんが逃げ出したことを考えても危険だなと思いました。

「私は最近、働き始めたばかりで、誰が働いているか把握してないんです……」

一旦、しらばっくれてみました。

すると顔つきが豹変、「本当は知っているんでしょ!! Nさんと会わせて!! Nさんと会わせて!! 私はねNさんのためだったら何でもできるの!! Nさんに会わせてくれるなら、今この場でこの子を殺してもいいの!! そう伝えて!!」

鬼のような形相で叫びます。おそらく、社務所の裏に隠れているNさんの耳にも彼女の声は聞こえていたでしょう。

その声量と形相に怯えていると、見かねた神職の男性が私と代わって対応。するとますます大声で騒ぎ、暴れ始めました。錯乱して暴れる女性に境内は騒然とした雰囲気になりました。

その日、私はNさんと一緒に帰りました。いつも明るく気さくな彼女ですが、その日はさすがに青ざめた表情でこんな話をしてきたんです。

彼女は今の神社で働く前は、関西の大きな神社で働いていたそうです。

「高校時代ローカルタレント事務所に所属していたんだけど、その時にヤバイ女にストーカーされ始めたの。事務所をやめて、前の神社の巫女になったんだけど、その後ストーカー行為がエスカレートして……」

Nさんが働いていると、顔に包帯を巻いた女が目の前に立ち、おもむろに包帯を外すと、「あなたの顔に似せて美容整形をしたの」。

確かにそっくりな見た目に、血の気が引き、Nさんは思わずうずくまってしまいました。

さらにNさんそっくりの見た目になったその女性は、Nさんの婚約者に近づき、彼を寝取ってしまったそうです。

そして、それもNさんにわざわざ報告にきました。

Nさんは直接は応対しないようにし、会わないようにしていたのですが、女性からの攻撃は止みませんでした。

「(Nさんの元彼氏と)結婚するから出席しろ!! もし出席できないなら電報を出せ!!」

連日、滅茶苦茶な事を言いながら大騒ぎしたため、Nさんはその神社では働けなくなってしまいました。

そしてNさんはストーカー被害から逃れるため、関西から九州に引っ越して、現在の神社でひっそりと巫女を続けることにしたそうです。