社会の闇を25年以上取材してきた村田らむ。そんな彼が一番恐怖を感じるのは、理解不能な人間の狂気に出会った時だという。世の中の闇に精通する筆者が綴る、思わず背筋が凍る人怖(ヒトコワ)物語。現場で取材を重ねる村田は取材のため、ゴミ屋敷専門の清掃会社で仕事をし、さまざまな種類のゴミ屋敷を目撃する。その中でも一番と言っていいほど印象に残った「ヒトコワ」な現場とは……。
※本記事は、村田らむ:著『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房:刊)より一部を抜粋編集したものです。
この部屋で生活してたの? と思うほどの汚部屋
ルポを書くために、ゴミ屋敷の清掃専門の清掃会社で2年間働いていた。
何十件も清掃に行くうちに、オシッコの入ったペットボトルが数百本出てきた部屋、10年間分のゴミが天井まで積まれた部屋など、壮絶なゴミ屋敷をたくさん見てきた。
ある日、一家で夜逃げをしてしまい、音信不通になってしまったという家の清掃に行った。
そのゴミ屋敷は団地の4階。階段を登っていくと、3階の時点ですでにひどいアンモニア臭、腐敗臭が漂ってきた。これは近所に住んでいる人はたまらない。
ドアを開けると、その臭いの発生源はすぐに目についた。
おびただしい量の猫と兎の糞だ。この部屋では、猫20~30匹、兎数十羽が飼われていたそうだ。部屋にはたくさんの家財道具も残っていたが、どれも汚物がべっとりとついていた。
壁や障子は猫の爪で徹底的にボロボロになっており、天井から吊るされたハエ取り紙には、びっちりと黒い大きいハエがついている。さらに、家主が消えて何日も経っているのに、まだハエはワンワンとうるさく湧いていた。
ゴミや糞をビニール袋に入れて一階まで持って降りる。トラックに積み込むが、糞は非常に重たい。何往復もしているうちに段々と壁が見えてきた。
壁には子どもの写真が貼られていた。
「このすさまじい汚い部屋で子どもが生活していたんだ……」
そう思うと、胸がギュッと苦しくなる。
子どもの写真はわざわざカレンダーにして印刷されたものだった。0歳、1歳、2歳、3歳……と順番に貼られており、右に行くに連れて写真の子どもは大きくなっていった。
子どもが小さい頃はまだ、この部屋はそこまで汚れていなかったのではないか。どこかのタイミングで生活が乱れて、後戻りできないほど汚れてしまったのだろう。
下の方からは子ども用の玩具や教材などが出てきた。だが不思議なことに、部屋からは寝具が出てこなかった。
この部屋のどこで子供たちは寝ていたのだろう? すでに移ろっていった過去のことながら不安になる。
家族が寝ていたのは・・・
清掃が進み、やっと床が見えてきた。床は畳が腐り、ほとんど土のようになっていた。歩いているとズブッと沈む。ゴミがなくなったので、やっとベランダのガラス戸を開けることができた。
「ああ、ここで寝てたのか……」
その声にベランダを見てゾッとした。
ベランダには布団が敷かれていたのだ。そして、布団には枕がいくつか置かれていた。そこで食事をした跡もあった……。
その家族の光景を想像しただけで怖くなると同時に、とても沈んだ気持ちになった。