事務所の対応にふてくされる日々

R-1ぐらんぷり決勝戦のあとのことを話そうと思う。

Aブロック敗退となったが、そうはいってもファイナリストだ。やはり仕事は増えるんだろうと思っていた。お笑い後発事務所ではあるが、初のファイナリストとして、いよいよ俺を売ろうと力を入れてくれるに違いない。そんな期待に胸を膨らませていた。

マネージャーからは「すぐに事務所に行って、役員たちや他のマネージャーにも顔を売ったほうがいい」と言われた。

当時、事務所ではM-1で1回戦落ちするようなコンビを必死で売ろうとしていたから、俺が結果を出したことで、「誰をバックアップしたらいいかわかっただろう」と大きな声で言いたい気分だった。事務所の玄関を胸を張って入るときは、まるで英雄が凱旋するくらいの気分だった。

だが、事務所の面々の反応は、俺の思っていたものとはまったく違った。のっけから「見てたけどさ、あれじゃあダメだな〜」とダメ出しされたのだ。さらに「あいつらは司会もできるし、売れる可能性を感じるんだよね」とまで言われる始末。

実際に、その後も事務所はそのコンビを売るための努力を続けた。俺は目の前が文字通り真っ暗になった気分だった。事務所初の賞レース決勝出場者は放置して、結果も出ていないコンビを売るって、いったいどうなってんだ。

実際、俺の仕事はまったく増えず、そのコンビには深夜番組のレギュラーが決まった。当時、テレビに出始めていた相撲芸人あかつのように、事務所を辞めてしまう芸人も、ちらほら現れた。

だが、このコンビも仕事をもらえてたのはわずか数年で、その後は事務所をクビになっている。実力がなくては、事務所のゴリ押しがあっても続かないのが、この世界だから。

じゅんいちさんに連絡すると、ワールドカップでの本田圭佑選手の活躍もあって、仕事が続々と入っているという。一方の俺は、まるで仕事が増えないことに焦っていた。結果を出しても変わらないことが悲しかったし、事務所に対する憤りも感じいてた。

もしかすると、神様はこれ以上の結果を出せということか。俺は決勝に行けたことに満足して、じつは3度目のチャンスも逃してしまったのではないか。そんな悶々とした思いで過ごしていた矢先、家が近所ということもあり、昔からお世話になっていた先輩、飛石連休の藤井さんから結婚式の誘いをうけた。結婚相手は、これまた昔から仲の良かった、ものまね芸人「SHINOBU」ちゃんだった。

芸人がたくさん集まった結婚式は楽しかった。二次会には、昔からお世話になり目にかけてくれていたブッチャーブラザーズさんもいるのが見えた。昔、ライブでもお世話になった、お笑い界の重鎮といえるお二人だ。

「ご無沙汰しています」と挨拶すると、ぶっちゃあさんは俺の手をしっかりと握って、こう声をかけてくれた。

「決勝おめでとう! TAIGAとじゅんいち、俺らがやってた『ビタミン寄席』に出ていたメンバーが活躍してるのは、うれしかったわ〜。仕事が増えるといいなー! おめでとう!」

リッキーさんも同様に、自分たちのことのように喜んでくれていた。俺は不意に目頭が熱くなった。そして気がついた、ああ、俺は誰かに褒められたかったんだ。決勝で結果を残せなかったことではなく、決勝まで行ったことを誰かに認めてほしかった。そしてそれを糧に、もっともっと頑張りたかったんだ。