迷走する日々

2011年のR-1ぐらんぷりで準決勝まで進むも、翌年からはまた2回戦落ちが続いた。父親を見返すというモチベーションもなく、キサラはクビになり、金がなくなると地元の先輩に電話して、日雇いのバイトを紹介してもらって、なんとか食いつないでいた。

37歳のときだったと思う。地元の同じ小中学校の同窓会があると連絡があった。久しぶりに同級生たちと会いたかった。だが、俺はその続きを聞いて、足がすくんでしまった。久しぶりの同窓会ということで会場はホテル、その会費が7500円だったからだ。

俺は迷っていた。本当は行きたかった。だが、会費の7500円が払えなかった。みんなには「仕事があって行けない」と嘘をついたが、本当は金がなかっただけだ。二次会の安い居酒屋から合流した。かつての同級生たちは皆、立派な社会人になって再会を喜んでいたが、心の底からは楽しめていない俺がいた。37歳にもなって7500円が払えない自分がみじめだったからだ。

金に困って参加しなかった会はいくらでもある。学生時代に仲がよかった友人の結婚式も、金がなく「仕事だ」と嘘をついて断った。ご祝儀を包みたい気持ちは山々だが、どうしても金がなかった。

そんな日はショーパブに行くのも憂鬱だった。出演時間より早く行って、近くにある川の土手で夕日に染まる川をじっと眺めた。

金に困ると人は弱気になる。もう芸人を辞めようかとずっと悩んでいたら。それに追い打ちをかけるような事態が起こる。所属していたオスカープロモーションが、あるコンビ芸人に突然、力を入れ始めたのだ。

悔しいから名前は書かない。だが、そいつらは事務所のお偉いさんにわかりやすく媚びたり、手土産をもって挨拶周りをしたり、その立ち振る舞いが面白いと評価されたらしい。そいつらは芸歴10年以上あったが、M-1グランプリは毎年一回戦敗退。ネタ番組にもほとんど受からず、周りの芸人から評価されていなかったが、上層部が「あいつら面白いから売れるぞ!」と一致団結したらしい。

事務所に目をかけられるようになったそのコンビは、お偉いさんたちが他の芸人に目移りして仕事が流れないように、さらに媚びへつらった。「ステージで評価されてなんぼ」という、芸人としての基本的なプライドのかけらも感じられないその振る舞いを目の当たりにし、俺をはじめとする立ち上げ当初からいたオスカー芸人はみんな荒れた。