江の島デートから始まった恋

「なんだか、かわいいバイトの子が入ってきたな」

それが第一印象だった。俺がいつもステージに立っていたキサラで、新しくバイトとして働き始めたその子は、よく働くし、とにかく気が利く子だった。気がついたら、スタッフや出演者からはもちろん、お客さんからもかわいがられるようになっていた。

周りから聞いた話では、どうやら声優をやっているようだが、あちらの世界も俺たち同じように売れるまでの道のりは厳しく、バイトしながら二足のわらじを履いていたようだ。

気がついたら、その子のことを目で追うようになっていた。だが、当時の俺はキサラの出演者で、向こうはお店のアルバイト。アルバイトに手を出すなんて恥ずかしいという思いがあった。お店でたまに話すこともあっても、距離が縮まることはなかった。

そうこうしてるうちに、俺はキサラをクビになる。今まで散々、身を粉にして働いていたのに、クビにするときは一瞬だった。その仕打ちに対して心は荒み切っていたが、新しい仕事も探さなくてはいけないと焦っていた。すると、知り合いから連絡があった。どうやらキサラのバイトの子が、俺と連絡を取りたがっているらしい。

「あの子か」

そこから連絡を取り合うようになり、お互い酒が好きということで、気が向けば一緒に飲みに行くようになった。当時はキサラをクビになったことに、とにかく腹を立てていたから、愚痴ばかりこぼしていたようだ。

その子といると不思議と楽しかった。いつもニコニコとした朗らかな性格だったし、俺の言うことでよく笑ってくれた。だから一緒にいて気が楽だったし、楽しかった。何度か飲みに行ったあと、付き合うことになった。

初めてのデートは江ノ島だった。小田急線に乗って、俺が好きだった江ノ島の海を見せた。もう9月だったから一軒だけかろうじて残っていた海の家で、2人で酒を飲みながら語り合った。

とにかく話が合ったから、その子といると楽しかったが、ある日、「もう付き合うのはやめよう」と俺から切り出した。

理由はいろいろあったが、30代後半になった俺はやさぐれていたようだ。今まであんなにあった根拠のない自信も、気がついたらなくなっていっていた。