オフシーズンも話題に事欠かないのがMLBの魅力のひとつ。そして、その主役を乗っ取った(?)のがニューヨーク・メッツ。日本のエースである千賀滉大のみならず、大物FA選手を大量にお買い上げ(うらやましい)。果たしてナ・リーグに、いや、ニューヨークシティに地殻変動は起きるのか? ニューヨーク育ちのアナリストであるKZilla(ケジラ)氏が徹底解説!

俺たちの誇り:ヤンキースこそニューヨークの盟主

ニューヨークには2つの野球チームがあります。それはニューヨーク市の最北端ブロンクスを本拠地とするヤンキースと、最東端クイーンズを本拠地とするメッツです。

ヤンキースは松井秀喜選手、田中将大選手、イチロー選手など著名な日本人選手が多く在籍した歴史もあり、今でこそ日本人選手が所属をしていないものの、日本でもかなり知名度は高いのではないでしょうか。

一方の雄、メッツも直近では千賀滉大選手(元ソフトバンク)の獲得が発表され、来シーズンの日本における注目度は(大谷翔平選手率いるエンゼルスには劣るかもしれないが)メジャー30球団のなかで2~3位を争うでしょう。

しかし結論から申し上げましょう。ニューヨークはヤンキースの街です。ファンの数でも、メディアでの取り上げ頻度でも、地元民への認知でも、すべてにおいてメッツを上回っています。

実際、ニューヨークの街を歩いてみると、見かける野球帽の8割は“かの白い「NY」ロゴ”を誇るヤンキースのもので、残り2割がオレンジ色の螺旋風の「NY」ロゴのメッツのものです。※筆者の独断と偏見による推計

ただ、(メッツファンに怒られる前に言っておきますと)このダイナミックスが変わろうとしています。実際、ここ数週間で、世界中のMLBファンが「メッツがヤンキースを超えた」と、ざわめきはじめ、メッツファンも「来年こそメッツの年!」と期待を膨らましています。

いまビッグアップルで何が起きているのでしょうか。今回はニューヨークの主として長く君臨をしてきたヤンキース、その王冠の奪取を試みているメッツについてお話をしましょう。

メッツのオーナー交代:史上最も裕福なオーナーが登場

事の発端は2020年。メッツのオーナーを長年にわたり務めていたウィルポン一家が「チームの売却を検討している」という報道が出回り、世界中のメッツファンが歓喜しました。というのも、ウィルポン一家はこれまでにポンジ・スキームという詐欺にあったり、詐欺にあった関係で金銭的に逼迫をしてしまい、適切な選手補強をできなくなったり、公に選手を批判したりなどで、ファンからはかなり不評でした。

そんななか、売却先の筆頭候補として上がったのがヘッジファンドの創業者・マネージャーであるスティーブ・コーエン氏。当時のコーエン氏の総資産価値は、Forbes社によると約146億ドルと推計されており、次に資産価値が高いナショナルズのテッド・ラーナー氏の3倍程度の計算になります。

「とにかくめちゃくちゃ金持ち」という点に食らいついたメッツファンが、期待を胸に2020年シーズンを見守っていました。そして、9月にはコーエン氏による買収合意が報道され、10月には正式に所有権97.2%程度を獲得し、メッツのオーナーへと成り上がりました。そして、ここから始まったのが、大富豪コーエン氏の大金叩きによるスター選手の乱獲です。

 

まず、就任したそのオフシーズンに、当年にトレードで獲得をしたスター遊撃手、フランシスコ・リンドーア選手と10年3億410万ドルの超大型契約延長を締結します。そして、2021年オフにも(当時37歳の)マックス・シャーザー投手に、MLB史上最高年俸の4,333万ドルを支払う脅威の大型契約(3年1億3,000万ドル)を締結するなど、2年連続で大胆な動きを見せます。

しかし、ここで止まらないのが怪物・スティーブ叔父さん。今オフ(2022年)に誰もの想像を絶する、途轍もない動きに出ます。※実際、現地メッツファンには「Uncle Steve」≒スティーブ叔父さんと呼ばれているので、本記事でも採用させていただききます。笑