2022年の日本シリーズで、26年ぶり5度目の日本一という快挙を成し遂げたオリックス・バファローズ。そして、オリックスに所属する吉田正尚選手は、メジャー球団から引く手数多である。

そのなかでも、ニューヨーク・ヤンキースと吉田選手の相性について、ヤンキースのチーム事情と照らし合わせながら解説します。

日本を代表するスラッガーがヤンキースにフィットする理由

先日、メジャーの名門球団ニューヨーク・ヤンキースが、現・オリックスバファローズの吉田正尚選手に興味あり、との報道がありました。

オフシーズンが始まった間もないタイミングでは、いろいろな噂話が飛び交うので、個人的にはだいたいの話を「へぇーそうなのかもね」程度で聞き流していますが、この話は自分でも不思議なくらい納得しました。

ハリー・ポッターの1作目で、ハリーが初めて自分の魔法の杖を手に持ったときに、髪の毛がプワッと舞い上がって、杖も謎に輝き出したあのシーンを思い出させます。(大袈裟)

しかし、考えれば考えるほど、マサー・ヨシーダーとヤンキースはパーフェクトフィットかもしれません。(やめろ)

吉田選手の選手としてのスペックと、ヤンキースが現在置かれているチーム事情を照らし合わせたうえで、4つの大きなテーマから見ていきましょう。

【1】左打者・外野の両翼が空席

 

まずはシンプルなものから。ヤンキースのスタメンには、左打者が1人しかいません (スイッチヒッターのオズワルド・カブレラ)。今シーズン中にスタメンを張っていた代表的な左打者のアンソニー・リゾ一塁手、アンドリュー・ベニンテンディ外野手、マット・カーペンター内/外野手がフリーエージェント(FA)となり、いずれも再契約の可能性はあるものの、現状は未明の状況です。

さらに前述のベニンテンディ外野手に加え、今オフ最大の目玉であるアーロン・ジャッジ外野手もFAとなっているなか、じつは外野手で固定されているのはセンターのハリソン・ベイダー外野手のみで、レフト・ライトはいずれも空いている状況です。

ジャッジ選手はヤンキース最大のスターであり、基本的には残留を前提に交渉を進めるものの、ジャッジ選手の去就にかかわらず外野手のスタメン枠はもう1つ空いています。ここに吉田正尚選手が入れば、左打者・外野手のニーズを一気に埋められます。

【2】コンタクトヒッターが欲しいなかで出塁率・パワーは重視

とはいえ、左打者の外野手は決して珍しくなく、「別に吉田選手以外でもいいじゃん」と思うかもしれません。

実際、前述のベニンテンディ選手も左打者の外野手であり、昨シーズン途中にヤンキースにトレード移籍したあとの成績は少し物足りなさがあるものの、メジャーでの実績は十分。NPBでは無双をしたものの、MLBで通用をするかが不明な日本人選手と比べると、より「安全」な選択肢と言えるでしょう。

それでも吉田選手へ興味を持つのは、コンタクトスキル(ボールへしっかりバットを合わせることができる能力)・出塁能力・それなりのパワー、の三拍子を兼ね揃えた圧倒的アップサイドでしょう。いわば、ベニンテンディ選手らと比べて「ハイリスクハイリワード」でしょうか。

近年のヤンキースの方針で「多少の打率の低さや三振の多さは見逃し、とにかく出塁率・長打率(≒OPS)が高い選手を並べる」というものが見受けられますが、その結果「打線の不調時は、ただただ三振が量産される」「チャンスで四球は選べるものの、ボールを前に飛ばせない」という弊害が起きてしまいました。

そこで、今年はコンタクトヒッターのベニンテンディ選手とアイザイア・カイナーファレファ選手を獲得をしたものの、前者はパワー不足(長打率.404)、後者は出塁能力もパワーも平均より低く……と打線への貢献度は低くなってしまいました。今まさしくヤンキースに必要なのは、高打率を残し、三振も少なく、出塁もでき、パンチ力もある、全てをこよなくこなせる吉田選手だと思います。

2017年以降、毎年打率3割、出塁率4割、長打率5割、OPS9割、三振率10%前後を安定的に突破しているのは、上記基準の全てにおいてエリート級である、という紛れもない証拠なので、あとはそれをワンランク上の相手らでもできるか。そこの見極め次第でヤンキースが獲得に乗り出すでしょう。