シーズン62本のホームランを打ち、MLBアメリカンリーグのシーズン本塁打記録単独保持者になったヤンキースのアーロン・ジャッジ選手。以前に執筆した記事でも取り上げた大谷翔平選手と競うMVP論争は、レギュラーシーズン終了後も日米では活発な意見が飛び交っています。
しかし、今回はあえて観点を替えて、ジャッジ選手の野球選手としての能力や、今季の成績がいかに歴史的かについてではなく、ジャッジ選手の素晴らしい人格について綴っていきたいと思います。
ナイスガイ神話を残す男、それがジャッジ
「“完璧な人間”というものは存在しないかもしれないが、いるとしたらアーロン・ジャッジかもしれない」
ジャッジ選手の話題を誰かに持ちかけた場合、チームメイトはともかく、どのメジャーリーガーやMLB関係者に聞いても、真っ先に褒めるのは野球スキルではなく、彼の人間性です。
ジャッジ選手について“A great baseball player, but an even better person” (「すごい野球選手だが、それ以上に素晴らしい人間」)という表現が、メディアで何回使われたか数え切れません。
冷静に考えると、歴代ホームラン記録保持者の話をするときに、まず話題に出すべきはその桁違いのパワーや、打者としての天才的能力、尋常ではないプレッシャーへの耐性といった野球的要素のはずでしょう。それらをすべて超越して、人間性がピックアップされるジャッジ選手は「どんだけいい人なんだよ!」となりますよね。というわけで、彼のナイスガイ神話を紹介していきましょう。
紛れもなくヤンキースの真のリーダー
歴史と伝統を誇るニューヨーク・ヤンキースには、近年のMLBでは珍しいキャプテン制度があり、直近でキャプテンを務めたのが2014年に引退をしたレジェンド、デレック・ジーター選手でした。それ以降、キャプテンの座は空席であったものの、ルーキーとして鮮烈なデビューを果たした2016年以後は、「ジャッジが後継者候補」としてファン・メディア・チームメイト・ライバル選手などから広く認識されるようになりました。
2年目の17年には52本塁打を記録しましたが、いくらすごい成績を残したからと言って、昇格後すぐにキャプテン候補に挙げられるのは、時期尚早に感じるかもしれません。しかし、その事実こそが、これも彼の人格がすべてを物語っています。
実際に、昇格1年目から親身にメディア対応やファンサービスなどに注力をし、2年目以降から積極的にチームメイトとのコミュニケーションを図る紳士的な行動は、非常に高く評価され、若手からベテランへ移っていくに連れて、さらなるリーダーシップを発揮していきました。特にヤンキースへ新規加入をした選手は、加入後に必ずと言っていいほどジャッジ選手を大絶賛しています。
アイザイア・カイナーファレファ選手(2022年3月加入)「合流後にすぐ挨拶にきてくれて、彼のおかげですぐにチームに溶け込めた。人格者とは聞いていたが、実際に会うまではここまで良い人だとは思わなかった」
スコット・エフロス投手(2022年8月加入)「彼は本当に最高な男。リーダーとしても一人一人にフォローをし、全員を必要な存在として扱っている。チーム全体に活気を与える存在」
そして、やはりリーダーが一番輝くのは有事の際。2020年のシーズン前のスプリングキャンプ中、(当時、ヤンキース所属の)田中将大選手が練習中に頭部にライナー直撃を受けてしまった際、メディア関係者がその動画を大々的に拡散させてしまったことを公に批判し、牽制を入れたことが非常に好印象でした。
つい先日も、メジャーデビュー登板を果たしたグレッグ・ウェイザート投手が、1アウトのみしか取れず4四死球3失点と大崩れをしてしまい、ベンチで落ち込んでいる姿を狙おうとするカメラを遮るなど、常にチームメイトを守ることを考えています。
そして、揉め事の鎮火活動では必ず先端に立ち、ファンがフィールドにゴミを投げ入れした際にはやめるように直訴したり、乱闘の際には中心人物を取り押さえたりしています。もちろん、自身が事の発端になることは絶対ありません。文字どおりの優等生ですね。