「認知症」について、人類が科学の力で解明できたことはそれほど多くはありません。ですが、なぜ認知症が発症するのか、どのような種類があるのか、どうすれば予防できるのか、治療する方法はあるのか。近年そういった疑問についての有力な仮説が登場し、それに対して科学的な検証が積み重ねられているところなのです。まずは「認知症」とはなんなのか、東京脳神経センター専門医の天野惠市先生に学びましょう。
※本記事は、天野惠市:著『ボケたくなければバラの香りをかぎなさい』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。
認知症の原因①:アルツハイマー病
認知症に関連する言葉に、「アルツハイマー」というのがあります。誰もが一度は耳にした言葉だと思いますが、「アルツハイマー病」がどのようなものか、正しく理解している人はそれほど多くないようです。特に「認知症」と「アルツハイマー病」を区別せず、同じものだと考えている人が多いのではないでしょうか。
認知症の定義は、「認知症とは、脳の病気のせいで頭がボケてしまった状態のこと」です。この認知症を引き起こす「脳の病気」には、代表的なものがふたつあります。そのひとつが「アルツハイマー病」なのです。
アルツハイマー病とは、「脳が病的に萎縮していくこと」を言います。つまり脳の体積が小さくなり、軽くなってしまうことで起きる病気なのです。
脳の萎縮は誰にでも起こるが、スピードが違う
では、なぜ脳が萎縮してしまうのでしょうか。実は萎縮そのものは誰の身にも起きることで、一般的には30代から少しずつ脳の萎縮が始まります。その原因は、脳を構成する神経細胞が毎日少しずつ減少するから。脳の神経細胞は約140億個あり、健康な人でも一日に約10万個ずつ減少していきます。
でも、萎縮したからといって病気になるわけではありません。どれくらいのスピードで萎縮しているか、そして脳のどの部分が萎縮しているか、それによって「病的な脳の萎縮」なのか「健康な脳の萎縮」なのかが決まります。
重要なのは、その神経細胞の減少スピードには、非常に大きな個人差があるということなのです。どんどん神経細胞が減ってしまう人もいれば、なかなか減らない人もいる。脳の機能にダメージを与える神経細胞が減ってしまう人もいれば、神経細胞が減ってもあまり影響が出ない人もいる。
このことから、「アルツハイマー病にならないようにするにはどうしたらいいのか」の答えが導かれてきます。まず、アルツハイマー病になる人と、ならない人の特徴を知ること。そして、アルツハイマー病にならない人の生活パターンを取り入れることです。
なお、アルツハイマー病によって頭がボケてしまう認知症を「アルツハイマー型認知症」と呼びます。