高級レストランに負けない料理を如何にして提供するか

フリーアナウンサー・新保友映の「あの人に聞きたい!」 -加藤友康氏(第2回)-

新保 前回は代表の夢を中心にお聞きしました。今回は、その夢の具現化のひとつである『ふふ』について詳しくお聞かせください。

加藤 私たちの仕事の大きな目的のひとつは「マーケットのないところにマーケットをつくること」です。『ふふ』は外国の方々を強く意識したリゾートでして、開業から10年以上経ちますが、ひとつの夢が形になった実感があります。もう十数年前の話になりますが、新宿に『パークハイアット東京』という外資系のホテルができたときに、日本の業界では楽観視する声が大きかったのです。

というのも、『帝国ホテル』『ホテルオークラ東京(旧ホテルオークラ)』『ホテルニューオータニ』の“御三家”が「やっぱり日本のホテルの神髄だ!」といわれてるところがあったからです。しかし、日本の観光業界の予想に反して、大ヒットしました。そこに私が注目をして見えてきたのは、海外からのお客さま、特に東京にいる外国の方がよくパークハイアットを利用していたことです。

では、ラグジュアリーなローカルリゾートをつくろうとなったときに――具体的には『箱根・翠松園(すいしょうえん)』や、『熱海 ふふ』をつくろうとしたときに――あらためて外国の方々をリサーチすると、「日本のスパリゾートは好きだけど、駄目なところもいっぱいある」と言われました。それをさらに分析したら、すぐに幾つかのウィークポイントが見えてきました。例えば、「日本の旅館っていいけど、プライバシー尊重されてないよね」というようなご意見です。つまり、仲居さんが部屋に入ってきてお茶をいれるというのは、外国の方々には理解されてないオペレーションなのです。

 


気品が漂う『箱根・翠松園』のエントラス。山の静寂と鮮やかな木々花々の息吹きが身を包む
 

新保 それが“おもてなし”といいますか、日本の古き良きサービスでもありますが。

加藤 はい。おっしゃるとおり、そこまでは理解できるそうです。ただ、さらに「それでは明日の朝食は何時に召し上がりますか? 8時ですね、それではお部屋にお持ちします」となりますし、実際は7時半にはお布団を上げにきます。しかも鍵を掛けた部屋に入ってくるので、外国の方々は大変驚かれるそうです。

あとはやはり食事です。その当時は単価3万円台後半が高級旅館とされているリゾートの相場でしたが、ここも私たちプロが分析をしていくと、食事に対する不満がとても大きいことが見えてきました。当時はまだ大型観光旅館がたくさん点在していましたが、お客さまへの料理のサービスには限界があったのです。例えば200人のお客さまが宿泊となると、人数分のお造りを切って冷蔵庫に入れておかねば回せません。せっかくの取れたての新鮮な魚でも、それでは味が落ちるのは当たり前です。

新保 そういった大型のホテルとどのようにして差別化をはかったのでしょうか?

加藤 単価3万円台後半といいますと、だいたい料理に掛けられる割合はある程度決まっています。しかしながら、東京都内の富裕層の方で、「僕は銀座のすし屋はここだ」「西麻布のイタリアンはそこだ」とおっしゃっている方は、だいたい15000円ぐらいの料理を召し上がっているのです。一般のホテルで一生懸命頑張っても、このギャップを埋めきれません。だからこそ、施設はもちろん、料理も究極的にやっていこうというのが、この『箱根・翠松園』であり、『熱海 ふふ』だったのです。

開業当初は驚かれましたが、プライバシー空間ということで個室の露天風呂が必ずあり、Wi-Fi設備などの環境も整えました。そして課題だった料理も、都内のレストランと同等、あるいはそれ以上のクオリティをお出しできるよう、お席に座られてから調理をはじめさせていただくことで、素材の味を落とさないスタイルを確立しました。

四季折々の風景に囲まれたプライベート空間でラグジュアリーな時間と美味しい料理が堪能できる『熱海 ふふ』