スモールラグジュアリーのブランドを維持する手法

新保 料理が美味しい理由がよくわかりました。

加藤 料理も“スモールラグジュアリー”の醍醐味のひとつです。そもそも、50ルーム以上の大型の宿泊施設では、そのお客様にあった細やかなサービスが難しくなってきます。きめ細やかなサービスを提供すべく、「スモールラグジュアリーでは50ルームしかつくらない」ということを、最初の開発のときに決めました。それがまずは日本にいらっしゃる富裕層の方々に支持いただけたところだと思います。たとえばお部屋にお風呂とベッドルームがあるスタイルは今でこそ主流になりましたが、これは私たちが最初につくった新しいリゾートスタイルが評価された結果だと考えています。

新保 スモールラグジュアリーの特別感は魅力的です。一方、普通の経営感覚で考えると、部屋数が限られると、それだけの数しかお客さまが入りません。つまり売り上げに限界が出ます。そうなりますと、「では思い切ってそちらに」というほうに舵はなかなか切れないのではないでしょうか?

加藤 数字だけを考えると、たしかに部屋数はたくさんあったほうがいいかもしれません。しかし、いちばん大切なのはお客さまに満足いただくことです。その代わり、“スモールラグジュアリー”スタイルの旅館を少しずつ増やしていくということも、当初から目標にしていました。

新保 そこまで計算されていたのですね。

加藤 私は「ブランドのスケール」という言葉を強く意識していますが、ブランドにおける命というのは、このスケールです。つまり多すぎてもいけません。「スモールラグジュアリーについては、10カ所しかつくらない」ということは、最初から明言していますので、今もゆっくりと質の高い旅館をつくっていっています。

『ふふ 奈良』と『ふふ 日光』が持つ“聖地”としての気品

新保 そんな中で、6月5日に新たに開業するのが『ふふ 奈良』、秋に開業するのが『ふふ 日光』ですね。


加藤 話は少し遡るのですが、スモールラグジュアリーは前述の『箱根・翠松園』から始まりました。もともと三井家さまの登録有形文化財にご縁をいただき、三井家さまから「大切に使ってほしい」ということでお名前もいただいて、今も使用させていただいています。これこそが、スモールラグジュアリーの始まりです。私どものリゾートづくりでは、場所選びに徹底的にこだわっているのですが、特にこだわっているのが“癒やしの地”であるということです。『箱根・翠松園』の場合ですと、100年前の三井家がなぜこの場所を選んだのかいいますと、例えば立地特性や周囲の環境などの厳しい条件をすべて乗り越えて選ばれた“癒しの地”だからです。実際、“聖地”といっても差し支えのない、素晴らしい場所です。

木のぬくもりと優しさにつつまれた空間が大きな魅力の『ふふ 奈良』

新保 その原点が『ふふ』にも受け継がれているのですね。

加藤 はい。まもなく開業の『ふふ 奈良』の設計は、私どものリレーションシップカンパニーである株式会社 TKN・ARCHITECT(ティーケーエヌ・アーキテクト)と建築家の隈研吾先生と共同で取り組みました。ご存じのとおり隈先生は、新国立競技場の設計をご担当された方です。やはり日本人らしい心というか、木々の使い方がとても素晴らしい。新国立競技場では北海道から九州までの木を全部バランス良く……特に震災で被害の大きかった東北の木をたくさんお使いになりました。今回の『ふふ 奈良』では奈良県の建材をふんだんに活用して、奈良らしいリゾートを作ってくださいました。

新保 新国立競技場は、「杜のスタジアム」とも言われていますが、そこには隈先生の日本人の心が詰まっているのですね。まさに“聖地”です。

加藤 “聖地”といえば『ふふ 日光』の神聖な空気はほかでは味わえません。こちらは東武鉄道様の土地提供で開業するのですが、ご縁があって、その場所が「田母沢御用邸付属邸」なのです。世界遺産である日光の社寺も近傍(きんぼう)に有するロケーションにあり、江戸の後半から昭和初期の、少し西洋と和の文化が入り混じったような建物になっています。まさに「ひらかれた聖地」と呼ぶに相応しいスモールラグジュアリーです

『ふふ 日光』では、美しい山々に囲まれ御用邸跡地に続く木々たちが、神聖な空気を漂わせ心を癒してくれる

新保 すごいですね。贅沢という表現では足りない、究極のプライベート空間ですね。プライベート空間と言えば、私が所属する「B-creative agency」はメジャーリーガーの前田健太投手はじめ多くのメジャーリーガーやプロ野球選手、アスリートのマネジメントをしています。

加藤 そうなんですか。

新保 著名な方々はどうしても顔が知られているので、旅行をする時なども場所を探すのが大変そうなのですが、『ふふ 日光』や『ふふ 奈良』を知ったら泊まりたいと思うのではないでしょうか?

加藤 ぜひぜひ、紹介ください(笑)。実際、スモールラグジュアリーには、各界の著名人の方々もたくさんお越しになっています。

新保 やはり、そうなんですね。家族や友人と過ごせたら最高です。このように、夢が1つ1つ形になるというのは素晴らしいことです。その成功の秘訣は前回、少し伺いましたが、やはりリーダーとしてずっと前に進まれている中で、一番大切にされてることも次回伺えたらと思います。

『フリーアナウンサー・新保友映の「あの経営者に会いたい!」』は次回4/16(木)更新予定です、お楽しみに。 

 

[聞き手]
新保友映(しんぼ ともえ)
フリーアナウンサー。山口県岩国市出身。青山学院大学卒業後、ニッポン放送にアナウンサーとして入社。『ニッポン放送ショウアップナイター』『板東英二のバンバンストライク』などでプロ野球の現場取材などを長く担当。その他『オールナイトニッポンGOLD』『高嶋ひでたけのあさラジ!』『高田文夫のラジオビバリー昼ズ』『三宅裕司サンデーハッピーパラダイス』などニッポン放送の看板番組を務める。2018年6月よりフリーアナウンサーとして活動を開始。プロ野球の取材・コラム執筆、経営者のインタビュー、イベントの司会など、幅広く活躍している。
所属:B-creative agency (http://bca-inc.jp/)
出演:『大石久和のラジオ国土学入門』(ニッポン放送) https://www.1242.com/kokudogaku/

〇大石久和のラジオ国土学入門