幼少期から感性豊かな視点で物事を観察していた書道家・武田双雲氏は、自身はADHD(注意欠如・多動症)だと語る。どこか人と違うと感じてきた経験の積み重ねが、彼が表現する作品にも映し出されている。学生時代、周囲との確執もあったと語る武田氏に当時の思い出を語ってもらった。

※本記事は、武田双雲:著『いろんな字、いろんな人間。おんなじ字はひとつもない。』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

ヤンキーにひとこと「目がきれいですね」

専門家と対談してわかったのだけど、僕はいわゆる発達障害に入るらしい。ずっと落ち着かない子。だから、ずっと質問ばっかりしていたわけ。

最近よく聞くと思うんだけど、ADHDっていう、ずっとウロウロしているタイプ。普通、大人になると落ち着くんだよ。それが、僕の場合は、ずっと落ち着かないままきて、今も動き回っている。

だから、学校でうまくいかないわけ。小学校6年生くらいから中学校なんて、みんなに無視されて。先生からも「武田くんはちょっと……」とか言われて、居場所がない。友達とも、なんか合わない。だから、なんかだんだんツラくなった。中学校、超ツラかったもん。高校もツラかったね。

部活はハンドボールに入りました。体は大きいのね。中学校1年生で177センチくらいあった。中3で180センチ、高校で185センチになった。性格は一応明るい。野球でピッチャーをやっていたから、肩が強い。運動神経もある程度いいから、先生が期待するわけよ。

「武田くんすごいね。いい体しているし、運動神経もいい。期待しているよ」

って言ってね。でも、先生がどんどん残念な目になっていくの。それで僕はどんどん外されていく。なぜかというと、ハンドボールの試合中に、雲がすごく美しいと、その雲をずっと眺めちゃうわけ。「うわあ、雲すっごいなあ」って思っているあいだに、ゴールを決められちゃう。

なんかボーっと見ちゃう。感動しちゃう。そういう変な子だったの。

たぶん、何パーセントかいるんだよ、僕に近い子が。

今、ヤンキーっていないでしょ? 昔はいたのよ、中学とか高校に。

「おい、お前、何見てんだよ」みたいな人がいた。僕、でかいから絡まれるのよ。「お前、なんだよ。なんで俺を見下ろしてんだよ」みたいに。

僕、ヤンキーが来たときも、その目の美しさに感動しちゃって「目がきれいですね」って言ったの。そうしたら「気持ち悪いな、お前」って。

だから、それからはあんまりヤンキーに絡まれなかった。

まあ、そんな子だったから、中高では全然うまくいかなかった。小学校はみんなふざけていたけど、中高からは「あいつは呼ばないほうがいい」みたいになって、先生にもあきれられていた。

美術では、ザリガニの絵を描くコンクールがあったの。ザリガニの絵って、みんなこう全体を描くでしょ? 僕は何を描いたかっていうと、ザリガニのはさみのところだけ描いたわけ。アップを描いたのよ。そうしたら「気持ち悪い」って先生に言われた。

美術は5段階のうち1とか2だったの。国語は文章力がないって言われて、支離滅裂とか言っていることがめちゃくちゃとか、話が飛びすぎるって言われて、5段階のうち1とか2だったの。

でも、その僕が、今は本を50冊くらい出している。毎日、文章を書いて、賞までもらっている。今、アーティストとしても、いろんなところで活躍させてもらってる。不思議なことだね。

人生初めてのアルバイトはクビになる

そういえば、バイトをクビになったことを思い出した。なんでクビになったかっていうと、人生で初めてやったアルバイトが、やっちゃいけないバイトだったんです。僕が何をやったかというと、郵便局で年賀状の仕分けをする仕事だったのね。

▲初めてのバイトは年賀状の仕分け イメージ:kouyunosa / PIXTA

「初めまして、武田と申します。人生初めてのアルバイトなので、頑張ります」

「よし、武田くん、あなたはここの担当ね」

と言われて、たくさんある年賀状を1枚1枚、千葉県だったら、なんとか市とかなんとか町とか分ける仕事をしたのね。ここは東京都葛飾区、ここは江東区とか港区とか分けて、みんなスピードがものすごく速い。となりの先輩を見ると、はい、はい、はい、はいって。

「武田くん、頑張ってね」

「はい。わかりました。頑張ります。一生懸命やります」

って、僕も大学生になって初めてのバイトだから張り切っていたのね。で、1枚目を「よし、仕分けするぞ」って、取って見たらね。

年賀状って見たことある? 

四角くて、郵便番号があって、「なんとかなんとか様」って名前がある。ほかには住所が書いてある。千葉県とか。その1枚目は「東京都」だった。1文字目は「東」っていう字が、ちっちゃく書いてあった。僕がびっくりしたのは、「東」の左払いが、名前に突き刺さっていたの。1枚目の1文字目から。

突き刺さらないでしょ、普通。「東」の左払い。

それで先輩に「すいません。これ突き刺さっていますよね?」って言ったの。でもそうしたら、先輩に「しっ」って言われたの。「邪魔だ」って。急いでいるからね。

僕は耐えられなかったから聞いてしまった。なんとか1枚目は入れました。でも、2枚目がまたすごいの。

2枚目は、数字の「3」。「3」は普通、下が大きいよね。でも、僕が見た数字は上が大きかったのよ。頭でかすぎだろ! で、僕はそれを見たときに、もうこのバイト無理だなって思った。だって、見たいから、この「3」を。

そうこうしているうちに、肩をポンポン。「武田くん」って郵便局の局長から呼ばれて「クビだ」って言われた。

「あなたは向いていない」って言われてバイトをクビになりました。