数十年前にはあまり言われなかった「自己肯定感」というワードが広まったことで、逆に悩んでしまっている人が最近では多いかもしれません。SNSなどで多くの情報が飛び交い、コスパ・タイパが求められる現代社会で穏やかに暮らすために、ストレスフリーで生きる習慣を身につけましょう。東京大学名誉教授の矢作直樹氏が、ストレス社会に生きる若い人たちへのメッセージを送ります。

※本記事は、矢作直樹:著『あらゆるストレスが消えていく50の神習慣』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

価値観について他人と比べる必要はない

とある講演会で「どうしたら、自己肯定感を高められるのですか?」と、質問されたことがあります。

ところが、私はまず「自己肯定感」という感覚を持っていないので、「それは持っていなければ、いけないものですか?」と、逆に質問してしまいました。

すると、その人は「私は何をするにしても自分に自信が持てないので、自分を肯定していきたいのです」と質問の仕方を変えてきました。そこで、ようやく私はこの人が、どこでつまずいているのか、わかったのです。

他人と比べているのです。

別の言い方をすれば、他人と比べた自分に対する期待値というものがあって、そこに到達していないので、悩むのです。

ですから、そのご相談に関しての返答は、

「他人と比べないで、何をするにも自分に集中すればいいのです。比べるものがなければ、高い低いは感じられないでしょう」

となります。

▲価値観について他人と比べる必要はない イメージ:タカス / PIXTA

六歳のときに、私は初めてテープレコーダーで録音した自分の声を聞きました。自分が思っていた声と違っていて、ちょっと鼻が詰まったような声で、なんとなくイヤだなと思ったことを覚えています。これも、他人と比べた自分に対する期待値とのずれです。

こういう話でしたら、「気にすることないよ」と皆さん言うはずです。しかし、人生の悩みだと、そのようには考えられない人が多いのです。他人と比較しなければ、実は、ほとんどの悩みは解決するにもかかわらず……。

私は母から繰り返し言われたことがあります。

「他人は関係ない。あなたは人と比べる必要はない」

ですから、私は全く他人のことを気にしない、ある意味、自分勝手な子どもでした。もしかしたら、迷惑をかけていた部分もあるかもしれませんが、自分ではそう思っていません。

まさに、他人がどう思うか、気にしていなかったのです。

また、大正生まれの両親も、他人の目を気にするような人ではありませんでした。家は貧しかったのですが、それを卑下(ひげ)するようなこともありませんでした。

あるとき、母が大家さんに、こっぴどく怒鳴られている場面を見てしまったことがあります。しかし、母は全く表情を変えずに、馬耳東風(ばじとうふう)だったのです。

子ども心に、「お母さんは全く気にしていないな」というのがわかりました。親が範を示してくれたので、私はそういうものだと思っていました。

ですから、私も誰に何を言われようとも、気にしません。人にはそれぞれ価値観があるので、その違いが生じているのだと思うだけです。

他人との比較は、あなたの健やかな心を阻害しかねません。会社でも、バイト先でも、自分と周りを比較する必要はないのです。

私にとって他人と比べないことは、子どもの頃からの習慣です。しかし、大人になってから、突然しようとしても、難しい人もいるかもしれません。

そういう人は、誰か身近な人にこのセリフを言ってもらうといいでしょう。

「他人は関係ない。他人と比べる必要はない」

もちろん、ひとり言でもいいでのす。言霊(ことだま)は必ず、あなたの心身に浸透し、習慣になるでしょう。