「パラスポーツ界の顔といえば鳥海」を目指す

――「先頭に立って」という言葉の通り、今まさに車いすバスケ界のインフルエンサーという立場だと思います。これから挑戦したいことはありますか?

鳥海 うーん……皆さんに「パラスポーツ選手といえば?」という質問をしたら、今もまだ「国枝さん」と多くの方が回答すると思います。素晴らしい功績を残した方なので、当然といえば当然かもしれません。最近でいうと、車いすテニスの小田凱人選手もいますね。そういった人たちのなかでも一番知られている存在……「パラスポーツ界の顔といえば鳥海」と言ってもらえるようになりたいです。それが僕の目標です。

それにプラスしてもうひとつ、「プロでい続ける」ということが新たな目標です。国枝さんのようにプロ選手として長く活躍をすることで、もっと車いすバスケ界を知ってもらえると思うんですよね。プロになったからには「タイトルを獲る」「チームを優勝に導く活躍をして、個人賞も獲っていく」というのが、僕が目指している理想の選手像です。

競技以外では、アシックスやオニツカタイガー(アシックスが展開するブランドのひとつ)といった、ファッション関係のお仕事にも携わっていきたいです。例えば、僕が関わった商品を作る、販売するといったようなことですね。

――8月~9月に行われた『FIBAワールドカップ2023』で、バスケットボール男子日本代表がパリオリンピックへの出場権を獲得しました。日本での開催ということもあり大きく盛り上がりましたが、彼らの戦いぶりを見ていて、どんな心境でしたか?

鳥海 僕らは合宿中だったので、みんなで盛り上がりながら見ていました。日本が世界で戦っていける! ということが証明されたんじゃないかなと思います。バスケットボールは体格が勝敗に大きく関わってくる競技ですが、日本が対等に世界と勝負できるようになってきているということは、単純にうれしかったです。そして「僕たちも同じ舞台に立ちたい!」という気持ちが、より一層強くなりました。

――戦術的な部分や「これは自分たちのプレーの参考になりそう」など、そういった目線で見ることもあるのですか?

鳥海 少し違う目線になってしまうのですが、これまでは千葉ジェッツの富樫勇樹選手が活躍していたなかで、今回のワールドカップでは横浜ビー・コルセアーズの川村勇輝選手が一番輝いていたな、と個人的には思っていて。“Wユウキ”という取り上げられ方もされるなかで、先輩のケツを叩いたというか、若手の台頭を匂わせた大会でもあったということを感じたんです。

僕たち車いすバスケットボール日本代表も、これから自分たちの世代が前線に立ってチームを引っ張るということを目標にしているので、チャレンジする勇気、刺激をもらえました。

▲気分転換は買い物と散歩ですね

――バスケ以外のこともお聞かせください。オフの日の過ごし方やハマっているものはありますか?

鳥海 オフの日は、服を買いに行ったり、朝に大きめの公園に行って陽の光を浴びながらゆっくり散歩したりと、外で気分転換をすることが多いです。最近はアクティブになったかなと思います。遠出の旅行にも行ったりするようになりました。

――最近の旅行先でよかったところはどこですか?

鳥海 沖縄ですね。6月に行ったんですけど、すごく過ごしやすかったです。義足の関係もあって海には入りませんでしたが、海を眺めながらプールに入ったり、ホテルでダラッと過ごしているだけで心地よかったです。ゆったりした時間が流れているというか。

――いい気分転換ですね。最後にパリ2024オリンピック・パラリンピックについて聞かせてください。出場権をかけた戦いが年明けから始まりますね。

鳥海 2024年1月にアジア・オセアニアチャンピオンシップスがあって、そこで1位になれたらパリ行きが決まります。2位の場合は、2024年4月にパリで行われる最終予選にまわることになります。最終予選はパリパラリンピックを決められなかったチームが集まり、上位4チームがオリンピックへの切符を手にします。

ただ、4月の最終予選のことは一切考えていません。1月のアジア予選で1位を勝ち取って、そこでパリパラリンピック出場を決めるので。今は1月の試合にだけ目を向けています。

――その1月の戦いに向け、取り組んでいることはありますか?

鳥海 今は自分のコンディションをしっかりと確認している段階です(※取材は11月上旬)。合宿まで時間が空くので、この期間は個人で詰められる部分を調整しています。1月の大会はオリンピック出場を決めるのはもちろんのこと、その先、つまりパリでメダルを獲るチームを作っていくこともそうだし、選手個々が成長するっていうことも大事です。

――東京パラリンピックでは、銀メダルを獲得しました。もう一歩上に行くために意識的に伸ばそうとしている能力はありますか?

鳥海 ひとことでいえば「得点力」ですね。これまでのポジションとは違ったところで得点を伸ばしていきたいと思っています。今まではゴール下のポジションで得点する、というのが僕の役割でした。それに加えて新たな武器が欲しくて、今は遠めの位置からのシューティングを磨いています。

先ほどお話したように、自分たちの世代が引っ張っていくというところで、チームで担うポジション、チームバランスも少しずつ変わってきています。ゴール下から離れると、ゴールを決めることは難しいのですが、遠い位置からも得点を狙えるようになれば自分のプレーの幅も広がるし、チームとして戦術を増やすことにもなります。

自分が積極的に狙っていくのはもちろんですが、どれだけ他の4人に良い形でシュートしてもらうか、というのもチャレンジしています。司令塔的な役割ですね。いろいろ新しいことにチャレンジしているので、調子の波が激しくなっているのが課題なのですが、1月の試合までにしっかりと突き詰めて、パリ行きの切符を掴み取ります!

――応援しています! 本日はありがとうございました。


プロフィール
 
鳥海 連志(ちょうかい・れんし)
1999年2月2日生まれ。長崎県出身。車いすバスケットボール男子日本代表。17歳でパラリンピック2016年リオ大会に出場。2021年東京大会では、大会MVPに選出される大活躍で、チームを大会史上初の銀メダルに導いた。2023年9月にASICSとプロ契約を結んだ。Instagram:@iamrenshichokai