体格がものをいうバスケットボールですが、2020東京オリンピックの日本女子チームは、強豪国を次々と撃破し決勝に進出。「小さくても勝てる」を実践し、世界を驚かせた。史上初の銀メダルに導いたトム・ホーバス監督に、就任時に目標を「東京2020オリンピックで金メダル」とした理由を聞きました。

※本記事は、トム・ホーバス :​著『チャレンジング・トム -日本女子バスケを東京五輪銀メダルに導いた魔法の言葉-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

最後まであきらめずに戦う姿勢が大切

バスケットボールの漫画『スラムダンク』(井上雄彦・集英社)に「あきらめたらそこで試合終了だよ」というセリフがあるようです。

スポーツに限らず、あきらめたくなるような逆境は、どこにでも存在します。場合によっては、そこで逃げ出すことも必要かもしれません。特に命に関わるようなことであれば、それは絶対に必要でしょう。

私のモットーは「生きていればチャンスはある」です。まずは生き抜くことが重要です。

人の生死ほど重要なことではありませんが、私が大学生のとき、試合に負けたことがあります。翌日も試合だったのですが、私も含めてみんながヘッドダウンしそうになっていました。そのときコーチがこんなことを言ってくれました。

「みんな、間違いなく、明日も朝日は昇るよ。もう1回チャンスはあるんだぞ」

ヘッドダウンしても次の日は来ます。そこにチャンスがあるのなら、絶対にあきらめないで、次のチャンスに目を向けるべきです。

東京2020オリンピックの準々決勝、ベルギー戦はまさにあきらめなかったことが勝利につながったゲームです。ベルギーは、私がヘッドコーチに就任して以来、国内の強化試合も含めると公式戦で5試合戦ったことのある、とても素晴らしいチームです。エマ・メッセマンというスーパースターもいます。

そんなベルギーに、後半13点差をつけられたときも「まずい」とは思いませんでした。選手たちも「まだ大丈夫だ」と思っていたに違いありません。試合時間残り37秒で2点を追いかける状況になったときも、その気持ちに変わりはありませんでした。

あのとき、誰ひとりあきらめていなかったから、残り16秒の林咲希の逆転3ポイントシュートは決まったのです。彼女自身もあきらめていなかったから、後半、それまで3本打ってすべて外していた3ポイントシュートを、練習していたとおりに打つことができた。そして、練習どおりに決めることができた。あきらめなければ、平常心を取り戻すことさえできるのです。

決勝のアメリカ戦もそうです。お互いにメンバー構成が異なるとはいえ、リオデジャネイロオリンピックでは46点差で敗れた相手です。しかし東京2020オリンピックの予選グループでは17点差。決勝戦も15点差でした。

もちろん負けは負けです。私たちに足りないところがあったから負けたわけですが、選手たちは最後まで絶対にギブアップしませんでした。スタメンだけでなく、ベンチメンバーもそうです。それがアメリカに離されなかった要因でしょう。

試合のあとで、女子アメリカ代表のコーチや関係者たちとも話しましたが、彼らは口々に「日本のメンタルタフネスはすごかった」と言っていました。私も選手たちのメンタルタフネスには頭が下がる思いですし、最後まであきらめずに戦う姿勢こそが、東京2020オリンピックの女子日本代表のバスケットボールだったと誇りに思っています。

▲最後まであきらめずに戦う姿勢が大切 イメージ::アスファルト スタンコヴィッチ / PIXTA