古橋亨梧を発掘「今の姿は想像できなかった」

その後は京都サンガ、ジュビロ磐田U-18の指揮官を経て、2016年からFC岐阜を3シーズン指揮。2年目の2017年には、当時は中央大学に在籍していたサッカー日本代表の古橋亨梧選手(現・セルティック)に声をかけ、プロのキャリアに導いた実績を持っている。

「彼を探してきたのは、当時、FC岐阜の強化をしていた高本くんです。私はただ彼を練習しただけです。最初に彼のプレーを見たときは、悪い選手ではないものの“特別な選手”とも思いませんでした。それでも“FC岐阜では戦力になる”と思ってオファーしたんですが、海外で活躍する選手になろうとは、そのときは全く予想してませんでしたね」

ルーキー時代の古橋選手の印象を振り返ると、長年の指導を通じて見えた“伸びる選手の特徴”についても言及してくれた。

「たくさんの選手を見てきましたが、活躍の場を広げていく選手の多くは、自分に向き合う力があり、明確な目標を持っているように感じます。対照的に、思い通りの結果が出ないときに他人に矢印を向ける選手は、伸び悩んでしまう傾向がありますね。

これまでも“技術に優れているのに、なかなか殻を破れない”とか“若いときにもう少し練習しておけば……”といった選手もたくさん見てきましたけど、自分がサッカー選手として生きていくためにはどうすべきかを考えながら、目の前の結果に向き合い、少し高めの目標に向けて地道な練習を積み重ねていくことが、一番大切だと思います」

プロサッカークラブが地域にある意義

今年も引き続き大木氏が指揮を取るロアッソ熊本は、一昨年はクラブ史上で最高位のJ2リーグ4位。昨年はリーグでは14位と低迷したものの、天皇杯ではJ1のチームを次々と退け、J2唯一のベスト4入りを果たした。

だが一方では、一昨年のキャプテンを務めた河原創選手(鳥栖)や、昨季のJ2ベストイレブンを手にした平川怜選手(現磐田)など、主力選手が移籍するケースは多い。次のステージに羽ばたく教え子の姿は、チームを率いる指揮官の目にどのように映っているのだろうか。

「いろいろな気持ちがあるんですけど、他の場所でも“しっかり頑張れよ”という思いが一番強いですね。指導者としての喜びは、チームが強くなること、選手が伸びることの2つなんです。上のカテゴリーから選手に声がかかるということは、選手の実績や成長を認めてもらえたから。

チームにとっては痛手なので“うれしさ”はないですが、“良かったな”とポジティブに受け取るようにしています。その選手を送り出したら、そこで頭を切り替えて、自分が預かっているロアッソ熊本に目を向ける。そんな感じで毎シーズン過ごしています」

指揮官の前向きな言葉は、クラブの成長を感じさせる確かな息吹を感じさせた。Jリーグが基本理念に掲げている「地域密着」についても、これまでの経験を交えながら現場目線の独自の理論を展開する。

「プロサッカーの裾野が拡大して、サッカー選手を目指す人も増えましたし、以前とは比べようがないほどレベルも上がったように思います。監督としてチームを強くしていくことも僕の大切な任務ではありますが、地域におけるプロチームの存在意義は、そこにいる人たちが感情を一緒に分かち合えるということにあると思うんです。

“ロアッソの試合を見たら元気になれた”“明日の試合が楽しみ”というワクワク感があることが、プロチームとして大切ですし、地域の皆さんに喜んでもらえるようなサッカーをすることを日々忘れずに心がけています。チームが勝利を積み重ねることも大切ですが、長期的には喜怒哀楽のあるクラブに育てていきたい、そう考えています」

▲J3での優勝を喜ぶ大木監督(2021年) ©AC KUMAMOTO

ロアッソ熊本は2024年シーズンに向けて始動しているが、大木体制5年目を迎える今季は、昨年の悔しさを晴らす勝負の年となる。

「監督を引き受けた2020年の熊本はまだJ3にいて、サポーターの皆さんが“僕らのサッカーを面白いと感じてくれているのかな?”という不安がありました。その年にJ3で優勝して、J2で試合をするようになったあとも、しばらくはその気持ちが消えることはありませんでした。

でも最近になって、熊本でのサッカー熱の高まりや、僕らの頑張り次第で“ロアッソ熊本をもっと素晴らしいクラブにできる”という手応えを感じられるようになってきました。皆さんの応援に感謝しながら、引き続き頑張っていけたらと思っています」

最後に、2024年も引き続きロアッソ熊本の指揮を執ることが決まった大木氏にコメントをもらった。

「昨シーズンは思うように勝利を掴めず、うまくいかないこともたくさんありましたが、選手やスタッフの皆さんは本当によくやってくれましたし、チームが苦しい状況でも応援してくれたサポーターの皆さんには、深い感謝の気持ちしかありません。

2024年も引き続きロアッソ熊本を指揮させていただきますが、“このままでは終われない”という気持ちをピッチで表現するようなシーズンにしたいと思っているので、熱い応援をよろしくお願いします」

2月25日、えがお健康スタジアムで清水エスパルスとの2024シーズン開幕戦を迎えるロアッソ熊本。攻守にわたって躍動するロアッソ熊本イレブンは、再び旋風を巻き起こすことができるのるか? 捲土重来に燃える大木監督の采配から、今季も目が離せない。

(取材:白鳥 純一)


▲ロアッソ熊本オフィシャルサイト