東京大学を8年かけて卒業し、現在は世界で活躍することを目指すサッカー選手に語学を教えているタカサカモトさんが、著書『東大8年生 自分時間の歩き方』(徳間書店)を発売した。
鳥取から上京したが都会の生活に馴染めず、東大で出会った恩師の言葉を胸に、メキシコやブラジルに放浪の旅に出たあと、ブラジル名門サッカークラブ・サントスの広報やネイマールの通訳を担当することになったサカモトさんに、好きなことを仕事にする方法をインタビューしました。
東大に入った理由は“先輩が魅力的だったから”
――まずは、さまざまな国を旅されてきたサカモトさんが、海外に興味を持ったキッカケを教えてください。
タカサカモト(以下、サカモト) 僕にとって最初の海外は、小学6年生のときに行った韓国旅行でした。通っていた鳥取県の学校が、のちに『冬のソナタ』で有名になる春川(チュンチョン)にある小学校と姉妹校になることが決まって、その締結式に参加することになったんです。今思えば、これがキッカケで「将来は外国語を使った仕事をしてみたい」と思うようになりました。
――その夢が東大を目指すキッカケになったのでしょうか?
サカモト いえ、最初は東京の国立大学に行って“いろいろな人に会いたい”と思っていました。僕が東大に魅力を感じるようになったのは、高校2年生のときに参加した東大生と話すイベントだったように思います。
実際に東大生の先輩たちと話してみた中で、とてもステキな人に何人か出会えたんです。東大に入学するのが難しいことはもちろん知っていましたけど、その頃から“東大に行って彼らと学生生活を送ってみたい”という思いが強くなったような気がします。
――サカモトさんの著書には、東大で出会った小松美彦先生の「自分の目で見て、心で感じる」という言葉が紹介されています。上京したての大学生だったサカモトさんが、小松先生の言葉を素直に受け止められたのはなぜですか?
サカモト 同じ言葉であっても、どういう人柄の誰が、どういう文脈で言うのかによって、その意味合いや受け止め方は変わってくると思うんですけど、この言葉を語っていらした小松先生に対して、僕自身が説得力を感じられたからだと思います。
――小松先生の影響で「自分の時間を生きる」ことの大切さ知ったエピソードも書かれていましたね。
サカモト 鳥取から出てきたばかりで東京のスピード感に戸惑う僕に、小松先生は自分の時間を生きることの大切さを教えてくださいました。「外側に流れている時間と自分の歩む時間にズレが生じても、その歩みを止めるべきではない」とか、自分の速さやリズムを大切にしながら過ごすという意味の「自分が時間になる」という言葉を小松先生は授けてくれて、僕の生き方を決定づける指針になったと思います。
――「自分の時間」を作るためのアドバイスはありますか?
サカモト 自分のペースを守っていくためには「自分がしっくりこないことはやらないようにする」こと、まずはそれが大切なのかな思います。とはいえ、現実的には、できることとできないことがあると思うので、まずは「実はやらなくても済む範囲のしっくりこないもの」から取り除く癖をつけて、徐々にそれを増やしていけばいいのかなと思います。
――なにかと周囲を気にすることが多い大学生の頃から、「自分の時間を生きる」ことを貫けたのはなぜですか?
サカモト どこかに“違和感”があったからだと思います。例えば、大学3年の終わり頃には、みんながお揃いのスーツを着て就職活動に臨むんですけど、この理由が僕にはまったく理解できなかった。昨日まではそれぞれ好き勝手な格好をしたはずの学生たちが、日付が変わった途端にいきなり同じ服装に変わることに僕は怖さを感じたんです。
――たしかに。ただ、安定した収入や生活を求めて就職するという方もいらっしゃると思うんです、サカモトさんは安定についてどう考えていますか?
サカモト それで言うと、じつは僕も「安定志向」なんですよ。“安定”とまとめられるなかには、さまざまな種類があると思っているんです。日本で一般的に言われる「職業や金銭の安定」以外にも、いろいろな種類の安定がありますから。僕はどちらかというと、人間関係や自分の過ごす時間や空間の安定を求めるタイプなので、会社に入って「明日は〇〇に出張に行ってほしい」などと言われることが耐えられなくて。
もちろん、企業に入った先に自分の思い描く理想の未来があるのならば、それは素晴らしいことだと思うんですが、僕は“未来の自分がどこで何をするか”を他人に委ねるのが不安で仕方なかったんです。経済的な安定とは違う安定を求めた結果が、今の僕の人生につながっているんだと思います。