聴いていて楽しい曲を集めた『ペンギンの卵』

「自分が聴きたい曲は頭の中にあったので、楽曲制作には苦労しなかったです。やっぱり、コロナ禍以降で自分が書く歌詞はガラリと変わって、人生を楽しむために音楽を使いたいと改めて感じました。

昔のTHEラブ人間の曲を聴いていると、なんでこんなにイライラしているんだろうと思うんです。周りには家族も友人も恋人もいたのに、まるで一人ぼっちのような難しい顔をしていたなって。気持ちが一人ぼっちだったのは嘘じゃないんですけど、当時の若い自分を慰めてあげたいんですよ」

寂しい思いを抱えていた主人公は、『ペンギンの卵』で楽しい冒険へと旅立つ。

「それまでは10曲作るのも苦労していたのに、今回のアルバム制作で30曲くらいできてしまって、THEラブ人間で出した曲もあるんですよ。1行目の歌詞ができたら、筆が止まらない。とにかく楽しむ音楽を作りたくて、『ざるそば』で運命だの恋だの言っていた男の子を野に放ってみたら、どんな冒険に出るのかを覗き見しているようなアルバムにしようと思いました」

『ざるそば』の主人公は車に乗ったり、電車に乗ったり、飛行機に乗ったり。自由に冒険している様子を金田がスケッチしていく。

「『シャインマスカット小夜曲』は、仕事に疲れた彼女に、ちょっと特別なシャインマスカットを買って帰るだけの曲なんです。“お嬢さんお疲れさん。フルーツ買ってきましたよ”という歌詞が最初にできて、そこからたくさんの果物が出てきて、キテレツ大百科の『お料理行進曲』のような曲になりました。聴いていて楽しい曲を作りたい。今回の『ペンギンの卵』は、耳心地の良い楽曲というのが最低のラインでした」

〇金田康平 - シャインマスカット小夜曲【Official Audio】

何について歌っているかわからなくても、耳心地が良ければいい。それは金田がパンクを好きになった原体験とリンクしていた。

「誰かを音楽で元気にするのって、じつは歌詞はどうでもよくて、俺も歌詞の内容が英語で意味がわからないパンクで元気をもらっていた。それが『ペンギンの卵』には最低限必要だと思ったんです。

例えば、ビートルズの『Love Me Do』っていう曲あるじゃないですか。あれはめっちゃ韻を踏んでるから耳心地が良い。俺がどんな暗い歌詞を歌っていようが、聴いていて楽しい音楽、明日も楽しくなりそうだと思えるアルバムにするのが前提だったんです。

それに『ペンギンの卵』に登場する主人公には、楽しい冒険をしてほしいなって。ただ今回のアルバムで冒険が終わるわけではないし、きっとこれからもずっと続いていくんだろうなって」

▲昔の曲を聴いていると当時の若い自分を慰めてあげたくなります

15周年を迎えるTHEラブ人間の音楽を楽しんで

金田が特に気に入っている楽曲について聴いてみた。

「『はなればなれたち』が特に好きな曲なんですけど、何度聴いてもよくわからないんですよ。“誰かといる時間は番外編の映画のようなもの”から始まって、“物語が終わればまたいつもの僕に帰る”という歌詞が続く。ここは日によって意味合いが違ってくるんです。

例えば、今日の取材も、ここは番外編で家に帰って一人になったときに本編が始まる。今日は一人ぼっちの瞬間こそが自分の人生だと感じる。全くそんなことはないのにね」

『はなればなれたち』の歌詞は金田にとって、しっくりくる内容だった。

「『はなればなれたち』の歌詞を読むと、“俺ってこんな人間だよな”ってめっちゃ思うんです。2番のAメロに“ 中国雲南省の珈琲豆をキッチンで挽いている”という歌詞があるんですけど、一人ぼっちで中国の豆を手で挽きながら“お湯の温度は何度がいいんだろう”って独り言を言っている姿が思い浮かぶ。俺はロマンチストで、そんなことばかり考えちゃうんです。今まで書いてきた歌詞ではかなり上位です」

SNSでは他分野で活躍する友人から多くのメッセージが届いている。この取り組みは、どのようなきっかけでスタートしたのだろうか。

「俺から好きな人にオファーさせてもらっています。じつはまだ公開していないのが150日分くらいあって〔※3月初旬インタビュー〕。オファーする人は“その人の作るものが好き”に限定していて、俺が楽しませてもらっているぶん、今回は逆に『ペンギンの卵』を楽しんでほしいなって。

もちろん、楽しんでもらうことが優先なので、もしコメント書けたら書いてほしいくらいのスタンスですけど、みんなめちゃくちゃ良いコメントくれてうれしいですね。なかには“全然良くなかったからコメントは無理”と言ってくれる人もいるんですけど、それも正直に伝えてくれてめっちゃうれしいんです。毎日幸せです」

そしてTHEラブ人間は15周年を迎える。ツアーも控えているが、あくまで楽しんでもらいたいという思いは変わらない。

 「感謝の気持ちとも違う。ただその瞬間を楽しんでほしい。俺がやりたいことと、メンバーのこだわりを混ぜて、それをみんなで共有して、その日だけのムードを楽しみたい。若い頃は勝ち負けばかり考えて、難しい顔をしていた。今はただ楽しみたい。その結果、共演者が俺たちの演奏を見て“俺には無理だ。バンドなんて辞めよう”って思わせる、そんなライブをやっていきたいです」

(取材&撮影:TATSUYA ITO) 


プロフィール
 
金田 康平(かねだ・こうへい)
X(旧Twitter):@KANEDA_KOUHEI Instagram:@kaneda_kouhei