2022年リリースの「エジソン」がSNSで話題となり、MVがYouTubeで5700万回再生を突破した水曜日のカンパネラの2代目ボーカリスト・詩羽(うたは)が、自身初となるフォトエッセイ『POEM』(宝島社)を3月15日に発売する。
この本は“20歳で人生を終えていたかもしれない”と語るほどの壮絶な人生を、彼女自身の言葉で振り返った自叙伝。さらに、台湾や日本各地で撮り下ろした、美麗な写真の数々が紙面を彩っている。3月16日の武道館公演を前にして、新刊『POEM』に込めた想いなどをインタビューで聞いた。
違和感のあるスタイリングをテーマにしました
「今回、スタイリングは面白いものにしたいという想いがあって、違和感をテーマにしました。ロリータファッションだけど足元は怪獣の足とか、私服でメイクも怖くしているけど背中に白い羽をつけて妖精にしたり。台湾で撮影したんですが、そこでは妖精が合うと思って、インスピレーションですね。
初めて行った海外が台湾で、ライブでも2回ほど行かせていただいたんですが、ライブに来るお客さんも本当に愛のある方が多くて、私にとってすごく大事な場所になってます。だから、リラックスして撮影に望むことができました」
フォトエッセイ『POEM』に収録された写真のコンセプトについて、詩羽はこう説明してくれた。撮影を担当したのは、横山マサト・仲川晋平・野口花梨という、詩羽が信頼を寄せる3名の写真家だ。
「撮影していただいた3名のカメラマンさんと、3名のスタイリストさんに関しては、とても信頼を寄せている方々です。カメラマンさんは、詩羽としての活動を始める前から仲良くさせていただいていて、スタイリストさんも今まさにお世話になっている方々。
多くの方々に、この『POEM』に関わっていただいてとても幸せですし、私がアイデアで出したことをすぐに具現化してくださって、私のほうでも一人ひとりに“この方だったら、こういう撮影が合うだろうな”と思ってお願いしたこともあって、すごくベストなカットが出来上がっていると思います」
彼女が自信をもって見てほしいと語るカットのほかにも、彼女自身の言葉で書き下ろされた自叙伝という側面も持っている『POEM』。独特の言語感覚で書き記されたテキストから、彼女をより深く知ることができる素晴らしい文章だが、彼女自身、読書や執筆などは身近なものだったのだろうか。
「漫画はすごく好きで、たくさん読んでいるんですが、いわゆる活字の小説を読んでこなかった人生なんです。小学校とか中学校の読書感想文も誤魔化してきたくらいなので、読み切ったのは人生で数えるほど。だから逆に書けたのかな、と思っています。執筆はスマホにまずバーっと流れを書いて、それをパソコンに移してもう少し詳しく骨組みを作ってから、感情を打ち込むという作業でした」
自分みたいな思いをする人間を一人でも減らしたい
自叙伝で書くということは、即ち、自分の人生を向き合うこと。そこに抵抗はなかったのだろうか。
「今回、フォトエッセイを発表しようと思ったのは、武道館でライブをするというのが自分の中で一つの大きな区切りになると考えたからなんです。この武道館ライブが、新たに多くの方々に知ってもらえるタイミングだと考えたとき、私は常々、さまざまな場所で“愛を大事にして生きていきたいね”と言っているんですが、こうして本を発表することで、その言葉の重みも違ってくるなと思ったんです。
周りから愛された人間が“愛が大事”と言うのと、愛が足りなかった人間が“愛が大事”というのでは説得力が違うし、伝わる人、響く人も変わってくる。私を好きでいてくださって、支えてくださるファンにはきちんと説明したいと思ったし、逆に私の言葉がしっかりとまだ届いていない“最近出てきた、ポップなやつだろ”という目で見ている人にも届けたいです」
その覚悟と意識はあったとしても、これまでの人生を思い返すと、かなり心を削られそうだと、この本を読めば感じるだろう。
「私は覚悟を決めたら、わりと行動が早いタイプではあるんですが、今回は思い出したくないことも思い出して書かないといけない。もちろん、落ち込むことはあったんですけど、それでも自分が今やっていることで、自分みたいな思いをする人間を一人でも減らしたい、その気持ちで向き合い続けました」
自分みたいな思いをする人間、という言葉が出たが、それは具体的に彼女の中でどういう人間を指しているのだろうか。
「自分みたいな人間……上手に生きられない人ですかね。上手に生きられない人って私が見る限り、たくさんいるなと感じたんです。家庭環境・学校生活・対人関係など状況はさまざまですけど、その環境で圧倒的に愛が足りていない人がたくさんいる。社会全体として自己肯定感が低いんじゃないかと思ったので、そういう人たちを減らせられたらなって」
詩羽の口から“自己肯定感”という言葉が聞かれたが、たしかに、この本にはその言葉が出てくる。この“自己肯定感”という言葉と、“自己顕示欲”という言葉がよく聞かれるようになった近年。彼女の中でこれらの言葉に対する印象はどういうものなのだろうか。
「自己肯定感は、本当に自分が自己肯定感の低い人間だったからこそ、必要なものだなと思ってます。例えば、みんながみんな、自分のことを自分で肯定する力があったら、誰かを否定しなくても、自分を肯定することで事足りているから、ヘイトがこの世の中から少なくなると考えているんです。だからこそ大事なものだし、あるべきもの。
自分が自己肯定感ゼロ、というかマイナスからスタートして、今はなんとか自己肯定感のあるところまで持ってこれたので、執着しているものであるかもしれません。
自己顕示欲という言葉は、私は“自分のことを好きでいてほしい”“自分のことをわかってほしい”という欲求と捉えているんですけど、みんながみんな、ある程度は持っているもので、今はSNS社会になってきて、TikTokとかで表現できるようになってきた。
でも本当は、自己肯定感が高ければ、自己顕示欲って必要ないものなんじゃないかなって。個人的には、自己肯定感を伸ばしていくことで、自己顕示欲は減らしていくべきものではないかなと思ってます」