独自の表現で優しく言葉を織り交ぜるミュージシャン・柴田聡子。文芸誌『文學界』で7年にわたって連載された彼女のエッセイ「きれぎれのハミング」が、単行本『きれぎれのダイアリー』(文藝春秋)として発売中だ。
この本は、クスッと笑える日常の疑問から、共感できるような悩みにも、そっと寄り添いながら日常に温かい光を注いでくれる一冊でもある。ニュースクランチのインタビューでは、『きれぎれのダイアリー』の話を中心に、本著の制作において柴田が考えた“言葉との向き合い方”について聞いた。
明るい雰囲気を意識した『きれぎれのダイアリー』
――本書は文芸誌『文學界』で連載されたエッセイ「きれぎれのハミング」をまとめた単行本ですが、改めて最初に連載の話があったときの率直な感想から教えてください。
柴田 とにかくビックリしました。まだ仕事で文章を書いた経験がなかった頃だったので、“私でいいんでしょうか?”とひたすらに思ってました。
――エッセイのネタ探しは、編集の方との雑談から見つけていくスタイルだったんですよね?
柴田 そうなんです。編集部の方に毎月1回来ていただいて、喫茶店で2~3時間お話を聞いてもらう感じで。私の雑談に付き合ってもらいながら、テーマを探しました。最近あったこととか、興味あったものとか、とにかくなんでも話しました。あるとき、“これはリストアップしたほうがいいかもしれない”と思いつくまでは、ずっとそのままでした。
――リストアップをしたほうがいいと思ったのは、整理するためにですか?
柴田 それもそうですし、リストがないとテーマを決めるときに、 あまりにも雑談になりすぎちゃった回があって。一通りみんなで話したけど「じゃあどうしましょうか?」みたいな。でもリストがあると、ちゃんとエッセイのテーマとして比べられるというか。
――1か月ごとだと「今月はネタがない!」となってしまうこともありそうですね(笑)。
柴田 それが、日々細かめのネタは案外と溜まるもので。それこそ、“いや〜もう今月は何もないな”とか思っても(笑)。とはいえ、本当に自分だけでは何も見つけられないときもありました。でも、そんなときは、私が別に面白いと思ってないことも、編集者さんが「それ、いけそうですよ!」って助けてくれて。担当の桒名さんをはじめ、歴代の編集者の皆さんがいたから、こんなに長く書けた実感があります。
ちなみに、このタイトルは桒名さんがつけてくれました。初回の打ち合わせで「『きれぎれのダイアリー』はどうですか?」って。バッチリハマりすぎて、すぐに決まりました。
――2017年から時系列で読んでいくと、新型コロナウイルスの流行による世の中の仄暗さが背景にある時期もありましたが、あくまで柴田さんの文章からは前向きなポップさを感じました。これは意図されてのことでしょうか?
柴田 そうですね。私の中でエッセイっていうと、笑えるものみたいなイメージが大きくて。 あと自分自身も笑えるほうが好きなので。でも、シリアスに書きすぎないことを意識しすぎて、ちょっと無理なぐらい明るいテンションの話もあるんですよね。自分でも「うわっ!」って(笑)。最初のほうとか、目も当てられないです。ちょっと気合い入りすぎました(笑)。
連載を始めるきっかけとなった山本精一との縁
――7年間の歩みを改めて振り返ってみて、いかがですか?
柴田 7年前の自分の未熟なところも見えるし、考え方も今とは少し違うな、と。当然ではあるんですけど、“人って7年でこんなに変わるんだな”と思いました。
――ちなみに、ご自身が一番手応えを感じているエピソードはどれですか?
柴田 終盤の「なぜ引っ越しの手伝いに呼ばれないのか」です。友達からも一番反響があったし、編集者さんからも「いいね!」と言ってもらえたような……。 テーマ的にはふわっとした、よくわかんないテーマなのに(笑)。
――たしかに、すごく面白かったです。ラジオのパーソナリティーの方が「なんでもないことからエピソードを作れたら一流だ」って話をされていて、それを思い出しました。
柴田 うれしいです(笑)。
――そもそも文學界さんが、柴田さんに最初にオファーをしようと思った経緯はなんだったのでしょうか?
柴田 じつは「きれぎれのハミング」は長期連載だったので、3代目の編集者さんまでいらっしゃるんですよ。お声がけをしてくださったのは、初代編集者の丹羽さんでした。私に声がかかったのは、山本精一さんから辿られたと聞いています。私が精一さんにお世話になっていたことを聞いてくださって、 お声がけいただいたみたいです。
――柴田さんは北海道出身ですよね、今でこそサブスクやYouTubeがあって、どこにいてもさまざまな音楽に触れられますが、当時の柴田さんが山本精一さんの音楽と出会ったきっかけは?
柴田 私の親友に音楽が好きな子がいたんです。高校は別だったんですけど、ときどき会っていて。ある日、精一さんの『なぞなぞ』っていう弾き語りに近いアルバムがあるんですけど、 そのCD-Rをいきなりくれたんです。近所のTSUTAYAとかにあるものでもなかったので、今考えると、どこから入手したのかよくわからないのですが……。
――それが今、山本さんとお仕事をされてるって、すごく感慨深いですね。
柴田 本当にそうです! 幸せですね。