とにかく「生き金にしてほしい」という思い

――ニクヨさんの著書を読ませていただくと、不思議なことに自分のお金の相談をしてくれているような感覚になりました。単に知識量が豊富とか情報の解像度が高いだけじゃなく、読者の立場にあったアドバイスのようだなと。

ニクヨ:当時は電話営業が中心で、対面営業より回数をこなせたので鍛えられたと思います。話すのと文字とでは伝わり方は違うと思いますが、私の場合は頭の中でしゃべったことを書き起こしているので、音読っぽい感じで伝わりやすさにつながっているのかもしれません。

内容に関しては、実際は銀行や証券会社の窓口にいる人も、当然ですが私以上に説明できるんです。でも、本当に興味があったり、買ってみるぞ! とならないと、窓口に行かないですよね。なので、私はそういう方々の代表だと思いながら、私の立場で伝えられたらいいなって。興味があれば、一度、窓口に行ってみるのもいいですよ。そう言いながら、著書ではネット証券を勧めてしまってますが(笑)。

――タイトルにもある“価値あるお金”がキーワードになっているかと思います。あらためて、ご自身にとって“価値あるお金”とは?

ニクヨ:まずは自分自身を、自分の人生の経営者のように考えることが一番のポイントになると思います。自分を会社みたいに考えて経営していくと、やっぱり価値がある会社にしていきたいと思いませんか?

長く続いたり働きやすかったり、そういう部分に価値を求める人もいれば、規模を大きくしていくことに価値を見い出す人もいる。それぞれ、なんらかの目的があり、そのために使ったり増やしたりしていきましょう、といった感じです。

――単に、どんどんお金を増やしましょう、ということではないですね。

ニクヨ:もちろん、準備から増やし方までのプロセスも本では紹介しています。ただ、それこそ世の中にたくさん正解が出回っていますよね。厚切りジェイソンさんのやり方だったり、後藤達也さんの『投資の教科書』だったり。

私の本でも基本的なことや増やし方も書いていますが、増やし方だけだとお金が生きてこない、そう自分の経験から思ったんです。だから、道具としてお金を使いこなしてほしいという気持ちを込めて、増やし方じゃない部分もたくさん書きました。ほかの方では書けない、私の経験や価値観など踏まえて、とにかく「生き金にしてほしい」という思いです。

自分の活動のあらゆるものが遺書のような感覚

――金融専門家とは違う、ニクヨさんならではの経験は、どんな部分に活かされていますか?

ニクヨ:貧乏時代も経験しましたし、女装というエンターテイメント産業の端くれとしてもやってきました。水商売やショーを通じて多様な人に接する機会もあり、さまざまな人種の方を見てきたことが、私のセールスポイントだと思ったんです。そして、いろいろな方のいろいろなお金の使い方も見ることができました。

――その一方で、当然、セクシャリティの部分で苦しい思いをされたこともあったと思うのですが。

ニクヨ:もちろん、昔はありましたね。それなりに優等生として生きてきたので、ゲイであることを自分で受け入れられない。テレビで『ねるとん紅鯨団』を見ていても、なぜ男女でくっつかなきゃダメなのかとか。バブル後半だったので、クリスマスはカップルがシティホテルに泊まるのがトレンディでしたが、そういう風潮にも絶望していました。

本屋の端っこにゲイ雑誌の『薔薇族』が売っていたけど、もちろん買えなくて。だったら、新宿二丁目まで行って、人目を気にせずに買おうとか。当時は世の中的にもすごく偏っていた見方をされていたので、本当に大変でした。

▲水商売やショーを通じて多様な人に接する機会が財産となった

――そういった独自の経験が、ご自身のアイデンティティや現在の活動につながっているのでしょうか?

ニクヨ:自分の活動のあらゆるものが、遺書みたいな感覚でやってるところがあって。お金のアドバイス、コラムの執筆、女装、YouTuber、どれも自分の足跡を残すような仕事としてやっています。それって、ある意味、傲慢ですけど、私は子どもも作らないし、残せるものがそれしかないじゃんって。だから、私でなければできないということにはこだわってはいます。逆に、お金を稼ぐためだけの仕事は受けていません。

そういう意味でも、好きな仕事を選べているのは、今までお金と向き合って、しっかり貯めたり使ったり運用したおかげだって思っています。“お金を持っただけで幸せになれます”とは言わないけれど、生きたお金があれば、お金のためにイヤなことをせずにいられる。だから、自分らしくいられるためにも、お金は大事だと言いたいです。

――昔は、お金の話をするのはよろしくない、みたいな風潮がありました。

ニクヨ:今でもそうですよ! みんな話したがらないけど、実はみんな気になっていますよね。お金があることでイヤなことをしないですむとか、逆に好きなことができるとか、結局、一番フェアな感じがするし、やっぱりお金は悪くないなと。

――ニクヨさんのような立場の方が話すと、また違った印象になりますね。

ニクヨ:女装の先輩からは、“はしたない!”と思われているようなところはあるんです。でも私は、ドラァグクイーンじゃなく「ニューレディー」だから、新しいことをしなきゃいけないのです。