通貨は「信用」で成り立っています。クレジットカードはお客の信用をもとにして生まれた決済サービスです。また、デビットカード、スイカ、パスモ、エディのような電子マネーも普及しています。このように、硬貨や紙幣のようなモノとしての通貨が不要となる時代が近い将来やってくるかもしれません。経済評論家・渡邉哲也氏が、お金の基本について解説します。
※本記事は、渡邉哲也:著『世界と人間を操る お金の学校』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
通貨は3つの機能を持っている
お金には10円玉、100円玉、500円玉といった硬貨と、千円札、1万円札といった紙幣があります。そのようなお金のことを「通貨」といいます。
ちなみに紙幣と通貨は発行している主体が違います。
- 紙幣:日本銀行が発行している。
- 硬貨:政府が発行している。
硬貨は傷つけたり壊したりすると罪になります。これは通貨には非常時の資源確保の意味合いがあり、硬貨はアルミ、銅、ニッケルなど工業に必要な素材でできています。
逆に、日本銀行が発行する紙幣は燃やしても破っても罪になりません。また、火事などで燃えても確認が取れれば、日本銀行で新しい紙幣と交換してもらえます。
ふだん私たちが何気なく使っている通貨には、主に3つの機能があります。
- 価値尺度
- 交換・決済手段
- 価値保存
です。「価値尺度」とは、ある商品を価格という数値で示すことにより、まったく別種の商品やサービスを比較可能にすることをいいます。
自分が育てたトウモロコシを他のモノと物々交換したくても、何が等価のモノかがわかりません。でも100円という値段がつけば、100円で買えるあらゆるものが等しい価値を持つことになるのです。
これが通貨の「交換・決済手段」機能です。
「交換・決済手段」は3機能のなかでも一番重要な機能で、まさに通貨を通貨たらしめているものです。通貨の交換・決済が可能となることにより取引がスムーズになります。また通貨は市場を拡大させる機能を持ちます。
最後の「価値保存」とは、モノの価値を蓄蔵することができる、貯金のことを指します。トウモロコシはいずれ腐るけれども(=無価値となる)、通貨であれば半永久的に保存可能です。
「信用=力」があれば通貨は不要になる
そもそも、その通貨を成り立たせているものはなんでしょうか? それは「信用」です。
たとえば、金貨や銀貨なら、金や銀といった貴金属がそのまま価値になることはわかると思います。
では紙幣はどうでしょう。ただの紙きれじゃないかという人もいます。それなのに1万円札は立派に流通し、千円札より価値があるとみんな信じています。なぜなら、国家がそのような価値があることを保障してくれているからです。
国家が保証し、その使用を国民に義務付けた通貨を「法定通貨」といいます。しかし、法定通貨のなかでも国家によって信用のばらつきがあります。アメリカの「ドル」のほうが、北朝鮮の「ウォン」より信用ができそうです。その違いは「国家の信用=国力」によります。
逆にいうと「信用=力」さえあれば、牛乳瓶のフタも通貨にできる、ということです。“ごっこ”に夢中になっている子どもたちが、こども銀行券を疑っていないのと似たようなものでしょう。
信用があれば通貨として成り立ちます。信用を英語でいうと「クレジット」。クレジットカードは、お客の信用をもとにして生まれた決済サービスです。
これさえあれば、手持ちの現金がなくても後払いを約束して買い物ができます。後払いといっても紐づいた預金の数字が減るだけで、直接現金のやり取りをするわけではありません。
ここに注目すれば、通貨というものがなくても決済が成立していることがわかります。ほかにも口座預金と接続したデビットカードや、チャージ(入金)して利用するスイカ、パスモ、エディのような便利な電子マネーも普及しています。
実際、企業間の取引では、ずっと以前から現金での決済はありませんでした。すべて銀行口座間のやり取りで、たとえばA社とB社が同じC銀行に口座を持っているなら、A社からB社に100万円支払うときは、C銀行の帳簿上で、A社の預金残高を100万円減らすかわりに、B社の預金残高を100万円増やすだけで済みます。
現金のやり取りを介さないという意味では、企業間ではとっくに電子決済が行われていたのです。程度の違いはあるものの、本質的には技術の進歩によって現金のやり取り以外の決済が拡大しているといえます。硬貨や紙幣といったモノとしての通貨がなくてもいい時代が、すぐに来る可能性があるのです。