人生は誰かのたった一言でひっくり返る

社員の可能性を信じ続ける彼に、「なぜそんなに他人を信じられるのか?」と素直な疑問をぶつけると、現在の只石を形成するきっかけとなった出来事について話してくれた。

「現在の僕があるのは、中学3年の6月、担任からのある一言のおかげです。当時は、厳格な家で育った反動なのか、いわゆる不良少年のような学校生活を送っていました。授業にもろくに出ず、テストの点は最悪で、“お前には行ける高校がどこにもない”と周りから言われてました。

「ある日、友人と組み合って遊んでいたとき、その友人が階段から落ちてケガをしてしまったことがありました。わざとではないことは理解が得られたものの、中途半端な不良だった僕は震えが止まりませんでした」

そんな状況のなか声をかけてくれたのが、只石の人生を変えた教師だったという。

「立ちすくむ私に、突然、当時の担任が“お前は頭が良いのにもったいない”と言ってきたんです。とっさに“なんで?”と聞き返すと、“お前は間違いなく読書をしている。テストの点が悪くても、発言がいつも論理的だからだ”と、予想だにしない言葉をかけてきたんです」

事実、只石の家庭では、テレビを見れる時間がわずかしか与えられなかった。門限も厳格に定められていた彼が娯楽として選んだのは、図書館にある大量の本。毎日のようにページをめくり続け、気づけば学校にある児童書はほぼ全て読んでいたという。

そんな只石の特性に気づいていた担任が続けて話した言葉によって、彼の人生は変化を迎えることになる。

「担任は続けてこう言いました。今のお前がこれから他人に影響を与えるとしても、せいぜい100人程度が限界だろう。でも、お前が“頭”を使えば、世界だって相手にできる。その言葉を聞いたとき、全身に鳥肌が立ったのを今でも忘れられません」

事件を聞き駆けつけた母親の後ろを歩きながら、只石はある決意をする。

「帰り道の途中、母親に“本気で勉強するから、塾に行かせてほしい”とお願いしました。でも、当たり前なんですが、“お前がいまさら勉強をするわけがない”と、すぐに断られてしまいました。このまま諦めるわけにはいかないと、ひたすらに毎日お願いしていたら、母親の知り合いから個人指導を受ける許可を得ることができたんです」

それから、鬼の努力が始まった。只石の変貌ぶりを面白くないと思った不良仲間からのいじめも、自分を鼓舞するためのバネに変えた。眠いときは、シャーペンを手に刺しながら机に向かい続けた。

「中学3年6月から勉強を始めたのにもかかわらず、県内で一番の進学校に受かることができました。ただ、いま思い返しても、合格発表のときに喜んだ記憶すらありません。当時は、勉強すればするほど成績が上がることを楽しんで熱狂していました。その結果、たまたま合格しただけ。

この経験から、私は誰かの一言で他人の人生がこんなに変わることを実感しました。そして同時に、僕の人生を変えた担任のように、他人の可能性を信じられる人間でありたいと思ったんです。代表として誰かの上に立っている今、社員の可能性を心から信じられるのは、僕の能力だと思っています」

▲中学校の先生からの一言で人生が変わって現在の姿がある

夢の第一歩は「他人に憧れる」こと

これからもトップを狙い続けるであろう只石に、今後の目標を聞いた。

「これからも突き進んでいくのであれば、どうせなら世界一を目指すべきだ、と思うようになりました。優秀な仲間たちとともに、世界レベルでの可能性を試していくのが今の目標の一つです。ちなみに、運も実力のうちという言葉がありますが、私はここまでの道のりを、運だけで乗り越えてきたとは思っていません。

それでは、実力とは何かというと、“どこまで努力できるか”ってだけなんです。私はこれからも、運命すらねじ伏せる努力がしたい。仮に、自分の運命が決まっていたとしても、それを自らコントロールできるくらい努力をして、世界一をつかみ取りたいと思っています」

最後に、どうしても行動できない私たちに、夢へ向かうための第一歩は何をしたらいいのかについて聞くと、頼もしいアドバイスが返ってきた。

「まずは、自分がなりたい姿の他人にあこがれてみてください。他人に対して憧れの気持ちがないと、“どうせ、あの人だからできたのだろう”という感情が働き、誰かの成功から何も学べなくなってしまいます。

たとえば、交差点を歩くお婆さんの肩をとってお手伝いしているような、そんな人に憧れることから始めるだけでいいんです。そして、自分もマネしてみればいい。そうして得た感謝の言葉や気持ちを成功体験にして“自分にもできることがある”と思えれば、次の一歩を踏みしめることができるはずです。

最近、悲しいと思うのは、SNSなどで成功している個人や有名人を攻撃する人がいること。他人に憧れられる人間になれば、そんなことをしようと思う気持ちすら起きません。そもそも、他人の足を引っ張っている暇なんて、誰にもないはずなんですよね。僕らの人生って、一回しかないんだから 」

(取材:川上 良樹)